修士論文:「種々のフラーレン誘導体をドープした液晶中でのフォトリフラクティブ効果」
論 文 概 要 |
フォ
トリフラクティブ(Photorefractive;PR)効果とは、光導電性と電気光学効果の共存する材料において、干渉光照射による光空間電界に起因
する屈折率の変調によって位相型屈折率格子が形成される現象である。この効果により光による光の直接制御が可能となり、光増幅、位相共役鏡、光記録、光演
算など様々な処理への応用が期待されている。特に、有機PR材料は高い非線形性、低誘電率、多様な分子構造、加工の容易さから注目を集めているが、効率や
解像度の問題などから未だ実用化には至っていない。我々の研究室では、有機PR材料の中でも低分子液晶などを用いた液晶PR材料に注目して研究を行なって
おり、すでに低分子液晶、高分子、光導電性増感剤からなる複合体液晶がPR効果を示すことを見出している。また、0.1〜0.4
V/umという低い印加電界で高効率であり、高分子の効果で高解像度化が実現できることを確認している。本研究では、数種類のわずかに異なる化学構造を有
するフラーレン誘導体を光導電性増感剤として液晶材料中に添加することでさらなる高効率化を実現する。また、添加するフラーレンの化学構造の違いが諸特性
へ及ぼす影響について調査することでより詳しいメカニズムを解明することを目的とした。さらに、光架橋性高分子液晶を添加することで、架橋構造に基づく液
晶PR材料のさらなる高効率化・安定化の達成を目的とした。液晶PR材料において分子量のわずかに異なるフラーレン誘導体C60, PCBM,
PCBOを用いて複合体液晶を作製し、添加物がPR回折特性に与える影響について調査した。結果、PCBO添加試料において回折効率 33.0
%と高効率で、低格子周期領域においても数%の効率が得られるといった高解像度化を実現することができた。さらに、光導電性の測定や光空間電界の数値解析
により、高効率を示す試料ほどイオンがトラップされやすく、それにより光空間電界が増大することを確認できた。また、PR効果発現のためのホメオトロピッ
ク構造の安定化のため、用いる高分子液晶に光架橋構造をとらせることによる回折効率・構造の安定性について調査した。結果、SLCPを20
wt.%添加した試料に対し、P6CB添加試料は高分子濃度が0.2
wt.%と低いにもかかわらず同程度の回折効率を示し、光架橋により二倍以上の効率が得られることがわかった。また、光架橋による回折効率の向上だけでな
く安定性・応答性の向上についても確認できた。以上より、添加するフラーレンの種類により液晶PR効果発現に影響を及ぼすイオンのトラップされやすさを制
御できる可能性があり、将来的に、添加する光導電性増感剤によりアプリケーションに応じた諸特性を達成することができると考えられる。また、液晶PR材料
に光架橋性高分子液晶を複合することで、添加する高分子が低濃度であっても高効率化・効率安定性の向上を達成できることがわかった。 |
(査読論文)
1. | Photorefractive
effects in polymer dissolved liquid crystal composites dopes with
fullerene derivatives, H. Ono, R. Hasebe, T. Sasaki, K. Noda and N.
Kawatsuki, Opt. Commun. 300 (2013) 210-214. |
2. |
Effects of photocrosslinking on photorefractive properties in polymer-liquid crystal composites, H. Ono, R. Hasebe, T. Sasaki, K. Noda and N. Kawatsuki, Appl. Phys. A 114 (2014) 1353-1360. |
(口頭発表)
1. | 2010年10月2日 電子情報通
信学会信越支部大会 種々のフラーレン誘導体をドープした液晶中でのフォトリフラクティブ効果 長谷部涼也、江本顕雄、川月喜弘、小野浩司 |
2. |
2011年11月28日〜30日 OPJ2011、大阪大学コンベンションセンター フラーレン誘導体を用いた高効率液晶フォトリフラクティブ記録 長谷部涼也、川月喜弘、小野浩司 |
3. |
2012年3月15日〜18日、第59回応用物理学関係連合講演会、早稲田大学 フラーレンドープ高分子複合体液晶の高効率フォトリフラクティブ効果 長谷部涼也、川月喜弘、小野浩司 |
4. |
2012年9月5日〜7日、液晶学会討論会、千葉大学 フラーレン誘導体の液晶中光誘起イオン伝導性に起因する高効率フォトリフラクティブ効果 長谷部涼也、佐々木友之、野田浩平、川月喜弘、小野浩司 |
5. |
2013年3月27日〜30日、第60回応用物理学会春季学術講演会、神奈川工科大学 高分子複合体液晶のフォトリフラクティブ効果に及ぼす光架橋効果 長谷部涼也、佐々木友之、野田浩平、川月喜弘、小野浩司 |