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修士論文:「アゾ色素ドープ材料の偏光ホログラム記録と偏光変換特性」

論 文 概 要

近年、高度情報化社会の到来に伴い、光学デバイスの高性能化への要求が非常に高まっている。光は振幅、位相、偏光性など独立した物理量が多く、情報の高速処理や並列処理に優れている。つまり、光の波動性を利用することで、より高度な情報処理が可能となる。このような光技術による情報処理システムの中でも特に重要となるのが「光による光の制御」の実現である。そのためには、光と相互作用し、さらに光の持つ特長を最大限に活かすことのできる材料の研究が必要不可欠である。その候補のひとつにアゾベンゼンが挙げられる。アゾベンゼン分子を含む高分子膜(アゾポリマー)に直線偏光を照射すると光異性化反応によって配向変化が生じる。この配向変化によって光学異方性、つまり複屈折が誘起される。さらに、アゾベンゼンの配向変化は円偏光の照射や熱処理によって簡単に消去することが可能であり、現在も盛んに研究が行われている。このアゾポリマーの応用のひとつに偏光ホログラム記録が挙げられる。互いに直交するふたつの直線偏光を干渉させると、二光波の合成電界による偏光分布が形成される。この偏光分布に対してアゾベンゼンが光異性化反応を起こし、偏光ホログラムが記録される。このホログラムは、アゾベンゼン分子の配向変化による周期的な屈折率分布として記録されており、回折素子としての応用が期待できる。

 本研究では、まず始めに一般的に知られているアゾポリマーへの偏光ホログラム記録を行い、その偏光特性の測定を行った。その結果、S偏光からP偏光へ、あるいは直線偏光から円偏光へなどの偏光変換機能を有することが分かった。次に低分子液晶と高分子液晶が互いに相溶した液晶複合体にアゾ色素をドープし、同様の測定を行った。その結果、アゾポリマーとアゾ色素含有液晶複合体では全く異なる偏光変換特性を得ることができた。このことについて、ジョーンズマトリックスを用いた理論解析を行ったところ、材料によって誘起される複屈折Δnの違いに起因していることが分かった。具体的には、アゾポリマーでは二光波の干渉による偏光分布に対して直線複屈折Δnlinしか誘起されていない。それに対してアゾ色素含有液晶複合体では直線複屈折Δnlinと円複屈折Δncirの両方が誘起されているのである。これらの条件を考慮することで実験から得た偏光変換特性を理論計算でも再現することが可能であった。アゾ色素含有液晶複合体では材料の組成比や初期配向を変えることで、今後さらなる偏光変換機能の設計が可能であると考えられる。

(査読論文)

1. Highly stable polarization gratings in photo-cross-linkable polymer liquid crystals.
H. Ono, A. Emoto, F. Takahashi, N. Kawatsuki and T. Hasegawa
J. Appl. Phys. 94 (2003) 1298-1303.
2. Polarization holograms in azo dye-doped polymer dissolved liquid crystal composites.
H. Ono, F. Takahashi, A. Emoto and N. Kawatsuki
J. Appl. Phys., 97 (2005) 053508-1 - 053508-8.

(口頭発表)

1. 2002年12月 応用物理学会北陸・信越支部学術講演会講演予稿集 73
色素ドープ高分子の偏光ホログラム特性
高橋文博、小野浩司
2. 2003年10月 日本液晶学会討論会予稿集 439-440
低分子液晶・高分子液晶複合体への偏光ホログラム形成
高橋文博、江本顕雄、小野浩司、川月喜弘
3. 2004年3月 第51回応用物理学関連講演会予稿集(第3分冊)1398
アゾ色素ドープ液晶複合体への偏光ホログラム形成と偏光変換特性
高橋文博,小野浩司, 江本顕雄, 川月喜弘