下水汚泥との混合嫌気性消化による植物系バイオマスの高効率エネルギー回収
(学部4年:川崎翔平)
1.
研究の背景および目的
昨今,化石燃料の枯渇や地球温暖化対策,循環型社会の構築に向け,「バイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定されるなど,バイオマス利活用促進の取り組みが活発となっています。バイオマスとは,農林水産物,食品廃棄物,家畜排泄物,木くず,下水汚泥等の有機性廃棄物で持続的に再生可能な資源です。また,バイオマスを燃焼させることにより発生する二酸化炭素は,もともと大気中から固定されたものであるのであり,燃焼させても大気中の二酸化炭素を増加させないという「カーボンニュートラル」という特性を持ち,大変注目を集めています。
バイオマスの利用法の1つとして,下水処理プロセスの嫌気性消化法(メタン発酵)を利用したエネルギー回収が挙げられます。
新潟県において年間約340万トンのバイオマスが発生していると推計されており,そのなかでも農・水産系バイオマスは全体の57%と多量に発生しています。稲わらは約65万トン(全国稲わら発生量の約7%)と植物系バイオマスでは1位の発生量となっています。新潟県では,99%の稲わらが鋤き込みにより利用されています。しかし,排水不良田においては,稲わらの鋤き込みによって,水稲の根腐れやメタンの放出が報告されており,利活用されているとは言い難いのが現状であります。なお,水田からのメタン放出は,新潟県内における全メタン放出量のうち,約70%を占めています。よって稲わらを有効利用することは,温室効果ガスの削減にも繋がることが期待されます。
また,社会的な面から見ると,現状の植物系バイオマスの利用としては食料と競合するものも少なくないため,賦存量が多く,食料と競合しないバイオマスとして稲わらなどのバイオマスは注目を浴びています。現在,稲わらのエタノール発酵などの研究は進んでいますが,回収熱量としてはバイオガスの方が多く,その有効利用用途が確立されれば今後,新エネルギーとして更なる飛躍が見られると考えています。
2.
研究の取り組み
本研究室は,これまでに混合嫌気性消化の対象として高含水率系バイオマスである生ごみに着目し,生ごみと下水汚泥の混合嫌気性消化の有用性を明らかにしてきました。エネルギー資源として新たに植物系バイオマスの稲わらに着目しており,稲わらは混合嫌気性消化に適するバイオマスであることや,可溶化前処理における粉砕や熱処理の有効性も明らかとなってきています。1)2 下図に本研究が提案する混合嫌気性消化システムを示します。このシステムを模擬的に再現し,連続式の混合嫌気性消化実験を行っています。そして,メタン発生量,固形物(TS)除去率,上澄み液の特徴,消化汚泥の粘度および脱水性について測定し,稲わらを混合することによる効果と,稲わらに酵素処理を施すことの効果について,システム全体で検討しています。また,近年,短い滞留日数で,微生物活性が高い高温消化に移行する処理場も現れていることから,中温域(36℃)に加えて高温域(55℃)の混合嫌気性消化実験も行い,それぞれの結果から,中温消化,高温消化の特徴を明らかにしました。3)
一般的に嫌気性消化に使用する汚泥は初沈汚泥と余剰汚泥を混合したものを投入します。しかし,近年では生活様式の違いなどから汚泥の性状が変化しそれらの汚泥の濃度が低下する傾向があり、消化日数の不足や汚泥の加温エネルギーの増大などの問題が取りざたされています。そこで,汚泥を濃縮(TS約5%)した後に消化槽に投入する事でこれらの問題点を回避し,さらに効率的にエネルギーの回収を行う事を目的として基礎実験を始めます。
【参考文献】
1)斉藤忍:下水汚泥との混合嫌気性消化による植物バイオマス(稲わら)のバイオガス化,長岡技術科学大学修士論文,2004
2)工藤恭平:稲わらの高効率メタン発酵を目的とした可溶化前処理方法の検討,長岡技術科学大学修士論文,2006
3)井上義康:中温および高温消化による下水汚泥と稲わらの混合メタン発酵に関する研究,長岡技術科学大学修士論文,2007