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修士論文・卒業論文の概要/2019年3月卒業

2019.3 卒業論文

浅間美萌沙
2004年新潟県中越地震における被害地域の地盤特性評価

日本は地震の発生が非常に多い国であり,地震は土砂災害や家屋の倒壊など人命や生活を脅かすため,被害原因の究明とその対策は日本にとって重要である.2004年に発生した新潟県中越地震で最大震度7を観測した旧川口町では多くの家屋被害が発生した.しかし,旧川口町ではおおよそ直下で発生した地震であるにもかかわらず被害状況が異なっており,被害原因が異なると考えられる.家屋の大部分が全壊した田麦山地区や和南津地区では地すべりが原因であることに対し,半分程度が全壊であった武道窪では地震動が原因であると考えられる.本研究では地震動が原因であったと考えられる武道窪を対象とする.産業技術総合研究所の調査によると,武道窪の家屋被害の状況は狭い範囲にもかかわらずエリアによって異なっていた.このことから,地盤特性が地震被害に影響を与えている可能性が指摘された.そこで,物理探査手法である常時微動探査を用いて被害地域の地盤特性の評価を行う.
家屋の被害状況を確認するため,住宅地図の比較と現地踏査を行うことによって被害情報をアップデートし,家屋の被害状況の詳細分析を行う.分析の結果,武道窪の北東側で被害が多く,南北側では被害が少ない状況であることがわかった.被害状況と地盤特性の関係を検討するため,地盤特性の評価を行う.地盤特性の評価は常時微動観測で計測した微動データから算出されるH/Vスペクトルを用いて行う.分析の結果,家屋被害が大きいほど表層地盤の固有振動数は低く,家屋被害が小さいほど表層地盤の固有振動数は高いという相関がみられた.この理由として地盤の揺れやすさの違いと,共振が発生していた可能性が考えられる.そのため,常時微動観測を用いて対象地域の家屋の固有振動数を評価したところ,表層地盤と家屋の固有振動数は一致しなかった.また,家屋の固有振動数の差は小さく,建築年代による傾向は見られなかった.従って,共振が被害状況を支配した可能性は低い.家屋の強度を考慮するため,建築年代で分類した家屋の被害分布を作製した.建築年代で分類した家屋の被害分布の傾向は全体の被害分布の傾向と同様であったため,武道窪の家屋の被害分布は家屋の建築年代の影響ではない.地域性の一致する狭い範囲内の家屋の強度と建築年代が比例すると仮定した場合,武道窪の家屋の被害分布は家屋の強度の影響ではないと考えられる.これらのことから,武道窪の家屋被害の状況は表層地盤の増幅特性による影響の可能性が高いと言える.
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佐藤涼奈
地震被害と地盤特性を考慮した複合的地震ハザード評価

日本では多くの地震が発生しており,地震被害軽減の対策が重要であると考えた.その手段としては,耐震設計やハザード評価などが考えられる.その中でも本研究ではハザード評価に注目した.ハザード評価については対象地域が都市部に集中しており,地域が限定されているなど問題点もある.地震ハザード評価は地震災害軽減のための有効な手段の1つであり,地震動に影響を及ぼす地盤や地形の詳細情報を付与して,評価精度の向上を目指す必要がある.本検討では2011年以降震度5弱の地震が6回発生し,地震危険度が高い地域に位置する長野県栄村を対象地域,2011年3月12日に発生したマグニチュード6.7の長野県北部の地震を検討地震として,微動計測を用いて詳細な地盤特性評価結果を反映させた地震ハザード評価を行った.栄村の中でも家屋被害が最も大きかった長野県栄村青倉集落をモデルケースに検討し,横倉集落に適用した.
地震ハザード評価を行うためには地震発生当時の状況を知る必要があると考え,地震発生当時の被害状況を把握することにした.対象地域の地震発生当時の地震被害分布図がなかったので,地震前後の住宅地図を用いて家屋被害を調査し,被害分布を推定した.各家屋を存在する・しない,形の変形がある・ないという点に注目して地震前後の住宅地図上で比較し,家屋被害の評価を行った.同じ被害の大きさに分類された家屋が多く集まるエリアごとに対象地域を区分けした.この区分けにより対象地域の地震被害分布を推定した.その後,地盤の観点から地震への影響を知るために,微動計測を行った.この微動計測によって得られるH/Vスペクトル比を用いて地盤特性を評価した.地盤特性の評価から対象地域をゆれやすいエリアとそれ以外というように区分けして検討,考察を行った.また,本研究では,過去に発生した地震を対象としているため,地震前後の住宅地図の比較から家屋被害を評価しエリア分けすることが可能であった.そのため,家屋被害の評価を地盤特性の評価に加えることで地震発生当時の建物リスクの評価を行うことができた.将来的な地震ハザード評価では家屋被害を把握することはできないので,地震発生当時の建物リスクの評価は行わず,微動計測によって得られるH/Vスペクトル比による地盤特性の評価のみを用いてハザード評価を行うことになる.
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