修士論文・卒業論文の概要/2021年3月修了・卒業
- 2021.3 修士論文
- 鈴木陽貴
- 2019年山形県沖の地震による小岩川地区の地震動と地震被害に関する研究
地震被害と表層地盤特性の関係について様々な研究がされている.時松らの報告によると,,2004年に発生した新潟県中越地震において震源近傍に位置する小千谷市では甚大な住宅被害を受けたが,その被害分布は一様ではなかった.小千谷市中心部よりも西の山際に位置しているエリアで全壊率が高くなる傾向が見られた.この原因として,表層地盤の非線形増幅特性が影響しているのではないかと指摘している.また, ,2016年に発生した熊本地震においても国土技術政策総合研究所による平成 28年熊本地震建築物被害調査報告 速報 により同様の指摘がされている.これらより狭い範囲で構造物被害が異なっていることから,表層地盤特性と構造物 被害 は 密接な関係にあると考えられている.本研究では2019年に発生した山形県沖の地震を対象に表層地盤特性と構造物被害の関係を明らかにした.山形県沖の地震は山形県沖で気象庁マグニチュード 6.7の地震が発生し,新潟県村上市府屋で最大震度 6強を観測した地震である.この地震の特徴として揺れの規模に対して被害が少なかったことが挙げられる.最大震度を観測した村上市府屋では山北体育館の盛土の崩壊のみで他の被害は住家の一部損壊のみで全壊は発生しなかった.本研究では住家の一部損壊の大小関係に着目した.山形県鶴岡市小岩川地区では住家 の一 部損壊のうち,屋根瓦の被害が特に多く発生したのに対し, 小岩川地区に隣接する大岩川地区と早田地区は屋根瓦の被害がほとんど発生しなかった.隣接した地区であることから入力地震動レベルは同程度と考えられる.また 3地区とも海岸線沿いに位置した集落であることから砂や礫が卓越した地盤であり,対象家屋が木造家屋の屋根瓦であることから条件が同じと考えた場合,屋根瓦被害に違いが見られた原因は表層地盤特性による影響であると考えた.そこで,山形県鶴岡市小岩川地区において物理探査を実施し,地震応答解析をすることで小岩川地区の屋根 瓦被害と表層地盤特性の関係を明らかにした.物理探査においては常時微動計測と表面波探査から小岩川地区の地盤構造の評価を実施した.その結果,小岩川地区中央部の屋根瓦被害の数が多かったエリアは表層が深くなっていることが考えられる.物理探査結 果をもとに,被害別の代表 2地点で地盤のモデル化を行い 地震応答解析をすることで 地表面の加速度応答スペクトルを比較した.解析結果から小岩川地区では非常に大きな応答値が算出され,小岩川地区の被害の数が多かったエリアの応答値は府屋の応答値よりも大きな応答を示している.被害状況からみて も府屋よりも小岩川地区の方が大きな揺れが発生したことが想定される.しかし,小岩川地区や府屋の応答値から見て甚大な被害が発生しても不思議ではない揺れが発生している.この原 因については現状解明されていない.代表 2地点の応答値の比較をすると,被害の数が多かったエリアは被害の数が少なかったエリアの 1.4倍程度の揺れを観測したことが想定される.これは表層深さが影響していると考えられる.モデル化における表層深さの差は 3mであり,狭い範囲の表層深さの違いから木造家屋の屋根瓦被害に差異が生じることを明らかにした.
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- 皆川敦也
- 地震ハザード評価のための表層地盤の増幅特性に関する研究
地震防災対策において,災害想定の高精度化は事前対策や災害対応,復旧プロセスの最適化につながるため重要である.また,構造物を振動させる地表へ伝わる地震動は,主に震源特性,伝播経路特性,表層地盤増幅特性の3種類に分類できる.災害想定に必要な地震ハザード(地震動,地盤破壊,津波など)や地震リスク(人的被害,構造物被害,経済的損失など)の大きさは場所ごとに異なるため,地域的分布を評価することが必要である.すなわち,災害想定の高精度化を図るためには,地域的分布(サイト特性)である表層地盤増幅特性が重要となる.また地震ハザード評価は,ある地点に対して影響を及ぼす地震を考慮し,その地点で発生する地震動の危険度を評価するものであり,地震の発生および各地点の揺れの予測に含まれる不確定性の評価が重要となる.
我国は世界的にも地震危険度が高い地域に位置しており,過去に大きな地震被害を何度も受けていることから,地震防災対策に関する様々な取り組みが精力的に行われている.2005年より運用を開始した地震ハザードステーションJ-SHISもその一つである.地震を引き起こす震源の情報だけでなく,地表の地震動 に大きく影響を及ぼす表層地盤特性の情報も加え,地震防災に役立てることを目的とした「地震動ハザードの共通情報基盤」としての役割を担っている.一方 海外では地震危険度が高い地域でありながら,地震防災対策や地震リスクや地震ハザードの評価が十分ではない地域も多い.特に表層地盤特性は地震動に大きく影響 を及ぼすため重要な情報であるが,地盤調査結果を含む様々なデータの蓄積が少ないことから,地盤リスクが適切に評価されていない場合がある.
地震ハザード評価において,地震動に対する震害予測のための地震動強さとしては周期特性を反映した応答 スペクトルが用いられる場合が多いが,国土数値情報から得ることは難しいとされており,応答スペクトル に代わり,最大地動速度を採用している.最大地動速度を使用する理由としては,各種構造物の被害や震度と相関が高いことや,液状化の発生と関係が深く,斜面崩壊の評価も加速度よりも速度を用いた方が適当であることなどが明らかとなってきている.また,最大地動速度の値は最大地動加速度の値と比べて地盤の非線形の影響を受けにくく,振幅の小さな場合の結果を大振幅の場合に適応しても大きな誤差を生じないという検討も行われてきた.
一方で,加速度に着目すると,その有用性を活用した検討等が行われている.構造物の振動震源断層を特定した強震動予測が例として挙げられる.特 性化震源モデルを設定し,地下構造モデルを作成することで,強震動の計算を行うことができる.出力地震動は加速度が主に出力される.また,土木構造物の振動解析において,運動方程式や加速度応答スペクトルを考慮するため加速度の評価が必要となる 場合がある 今後 加速度 を指標とした研究や計算方法等に対する 評価の 有用性 を考慮するため 地表への入力地震動を加速度として算出する必要がある.そこで, 最大速 度の増幅率を最大加速度の増幅率へと変換し,両者の関係式を算出し,最大加速度の地盤増幅率マップの作成を試みることを目的とした.
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- 横江佳人
- 経験的地震動評価手法を用いたヤンゴン市の地震危険度評価
ヤンゴン市は約人口500万人をかかえるミャンマー最大の都市である.ヤンゴン市の地震危険度は高く,近くには,ミャンマーの中央部を約1500kmにわたり縦断するSagaing断層が位置しており過去に大きな地震が多数発生している.そこで,SATREPSというプロジェクトでは,「ヤンゴンにおける建物倒壊危険性評価」が行われており,ヤンゴン市内の地盤増幅率の推定などの地震防災に関する研究が行われている.しかし,これらの研究では,工学的基盤面の地震動を30kineで統一しているため,個々の地震に対する地震動分布を考慮していない.そこで本研究では,ヤンゴン市内で起こりうる大きい規模の地震を想定し,強震動評価を行うとともに詳細な工学的基盤面での地震動を求め,既往の研究の地盤増幅率を用いて地震危険度評価を行うこととする.
- 2021.3 卒業論文
- 佐藤 翼
- 実測結果に基づく木造構造物の振動特性に関する研究
日本全国で行われている地震リスク評価では,想定地震動を距離減衰式から算出している場合が多い.距離減衰式は観測事実に基づき構築されているため,ある程度の精度を有する.一方,評価対象地域特有の地形や地下の構造などが考慮されていない.そのため,詳細的に見た場合,地震動予測の精度が落ちる可能性が考えられる.また,距離減衰式は過去の地震データを統計的に処理した経験的手法に基づいた式であるが,2000年以降の大規模な地震のデータが反映されていないものが多い.そこで,本研究では精度を高めるため地域を新潟県に限定し,精度の高い距離減衰式を構築する.
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- 松谷優汰
- 地震タイプによる地震動の距離減衰特性の検討
日本周辺で発生する地震は,内陸型地震と海溝型地震に大別され,地震動の評価で地震タイプを考慮することは重要である.地震の揺れは震源から離れた場所ほど小さくなるという,距離減衰と呼ばれる特性を有しており,地震動評価手法の1つに,この特性に着目した距離減衰式がある.距離減衰式では精密な評価は難しいものの,地震の規模や,震源からの距離が得られれば最大地震動を推定でき,非常に簡便な手法である.本研究ではこの距離減衰式に着目し,その中でも著名かつ地震タイプを考慮できる,司・翠川式を基本式とした.また,評価精度と適用範囲はトレードオフの関係にあること等から,評価精度に着目し,適用範囲を栃木県に限定した.さらに,栃木県に被害を与える地震タイプを3つ考慮し,地震発生範囲もこの3つの範囲に限定した.以上を踏まえ,本研究では,司・翠川の距離減衰式を基本式とし,距離減衰特性を表現できるよう,式の係数を修正することにより,適用範囲を限定した距離減衰式を構築することを目的とした.また,強い地震動を予測することに主眼を置いた.
適用範囲と地震発生範囲を決定した後,地震データを強震観測網(K-NET,KiK-net),広帯域地震観測網(F-net)を使用して収集した.地震データを集める際には,地震動の最大値の基準,観測点の場所の基準,地震規模(M)の基準を設定した.こうして収集した地震データから,断層面の決定,緯度・経度の直行座標(UTM座標)への変換等を行い,断層とサイト(強震観測網の観測点)との幾何学的な最短距離である断層面最短距離を計算した.地震データを収集した結果,栃木県においては司・翠川式の推定値より,観測値の方が大きくなった.このような結果となったのは,栃木県周辺が,最大加速度が大きくなる傾向がある地域だからと考えられる.この結果から,司・翠川式の推定値を大きくする必要があったが,3つの地震タイプで修正量が違うと見込まれたこと,司・翠川式では地震タイプの影響を係数dで表現しており,地震タイプ毎に異なる値を用いていること等から,式に用いられている係数dを修正することとした.修正の結果,地震タイプ毎の係数dを提案し,各係数dを用いた結果,司・翠川式と同等,あるいはそれ以上の精度を得ることができた.また実際に,地震タイプ,適用範囲を考慮することで,距離減衰式の精度を高めることが可能であると確認できた.
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