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修士論文・卒業論文の概要/2022年3月修了・卒業

2022.3 修士論文

池田綾華
既往地震の再現に関する取り組み,1987年千葉県東方沖地震(M6.7)における地震被害と地震動レベル

日本での地震災害は後を絶たない.たびたび,多くの被害地震が発生し,多くの犠牲が伴っている.このような被害を防ぐために,過去の地震の知見を蓄えていくことが重要である.なぜなら,「地震被害は繰り返される」からである.全く同じ地震被害はなくとも,地盤状況,周辺環境,地震規模など条件が揃えば,別の場所でも同等の地震被害が発生する.そのため,同様な地震が発生した際に,迅速な対応が行えるように,過去の地震を分析していくことが重要である. 近年,地震に関する情報収集・分析手法などは多様化している.広域な地震観測網や,GPSによる位置情報を持った観測記録などは近年,急速に発達したものである.一方,過去の地震については,調査は行われていても情報量が少なく,アナログ的に保存されており,情報の逸脱が見受けられる.地震防災において過去の地震の分析が重要だが,実際に分析対象とできるような,記録や文献が残存する被害地震は少数である.その傾向は,過去の地震になるほど顕著になるため,限りある貴重な残存する地震記録の収集は,逸散が進む前に早急に取り掛かるべきである.
日本の都市部は,軟弱な沖積平野に属することが多い.さらに,『一極集中』と言うように,日本の重要な機関は首都圏に集中しており,ひとたび大地震が発生すると被害は甚大と考えられる.本研究で対象とするのは,1987年千葉県東方沖地震である.首都圏に震度5の揺れをもたらし,死傷者が発生したほか,多くの住家に損壊を与えた.現代地震観測網だけでなく,個人の情報記録術なども,普及しない時代に発生した地震にも関わらず,本研究において,3種類の地震観測記録を確認した.これらの記録は,たいへん貴重な記録であると同時に,一元的な整理・管理が行われていない.そのため,地震情報を可能な限り収集し,貴重なデータのアーカイブ・デジタル化し,実観測記録の分布図として当時の状況を再現する.また,再現を行った地震記録をもとに,現代のデータ管理技術を用いた,詳細な再現を行うことで被害想定に活用する.地震動の距離減衰特性を用いて,地震規模,震源深さ,地震タイプなどからある地点の地震動を算出することが可能な,司・翠川らが提唱した距離減衰式の評価を行い,再現精度を高め首都圏の想定地震動を算出する.また,地震被害記録についても情報収集と整理を行うため,想定地震動と実被害の記録の関連性を分析する.
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熊谷泰知
インドネシア・パル市で発生した大規模地盤流動メカニズムに関する一考察

2018年9月28日にインドネシア共和国のスラウェシ島中部でMw7.5の地震が発生した.震源近傍域のパル市では強い地震動が生じるとともに,液状化の発生や最大高さ3mの津波に加えて,大規模な地盤流動などによる被害が発生した.この大規模地盤流動は複数の地域で発生し,パル市中央に甚大な被害を与えた.この被害の特筆している点として,最大傾斜が約3.9%と緩傾斜であったこと,流動範囲は最大で約3.5~1.5kmにもわたっていたことであり,世界でも例を見ない被害として挙げられている.この地盤流動の発生メカニズムは単純ではなく,様々な研究者たちによって考察されている.
一考察の一つとして,被災後のボーリング試験結果や被害状況,地形条件などから現地地盤には被圧された地下水が存在しており,不透水層とよばれる層がその地下水を閉じ込めていた.そして,地震が発生した際に不透水層が破壊され,被圧された地下水が噴出し,地下水の供給が止まらなかったと考察されている.そこで本検討では,不透水層が破壊される地盤のケースについて数値解析を用いて評価した.具体的に流動域でのボーリング試験結果を用い,非液状化時,不透水層より上部の液状化時,下部の液状化時,上部下部双方の液状化時の4つの極端な解析ケースを考え,解析を行った.
解析結果としては,不透水層より上部層のせん断波速度が小さいため,ひずみが大きく発生したこと,不透水層より上部層の液状化の発生が一番大きいひずみを生じること,不透水層より下部層の液状化の発生は地盤全体に大きいひずみの発生はないという結果となった.以上のことを踏まえると,不透水層より上部層液状化の発生により,大きなせん断ひずみが発生し,不透水層が損傷することにより被圧されていた地下水が流入に,今回の被害に至ったことが示唆された.また,簡易液状化判定を非流動域で実施したところ,非流域では液状化しにくい結果となり,液状化の発生が今回の地震被害に関係していると結論付ける.
今後の展望として不透水層での液状化の発生を考慮した有効応力解析や,現地で表面波探査を実施することで地盤構造の推定を行いボーリングデータの妥当性などについて考察していく必要がある.また,現地試料を用いた実験を行い,解析パラメータを現地に忠実に入れ込むことが必要であると考えられる.
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高田 光
表層地盤特性が地震動特性に与える影響

2004年新潟県中越地震では震源近傍で強い地震動が生成され広い範囲で多くの被害が生じ,震源近傍の旧川口町武道窪地区でも家屋の倒壊等の被害が多く発生した.しかしながら,被害の程度は一様ではなく,当該地域の直径1km2未満の狭い範囲で場所により被害状況は異なったことが地震調査報告から明らかになっている.既往研究では,木造住宅の地震被害の傾向について,家屋の建築年代や構造に特に大きな差がなかったことから,地盤特性の違いにより生成された地震動が異なり,その影響で被害が生じたことが示唆された.さらに,当該地域における複数地点で微動計を用いた常時微動測定を行い,地盤の卓越振動数を推定した.推定した卓越振動数をカテゴリに分類し,卓越振動数と被害状況に相関があることも示している.しかしながら,常時微動による卓越振動数の結果は離散的であるため,地盤特性の大まかなカテゴリ分けは可能であったものの,各カテゴリの境界部が不明瞭な結果となった.
そこで,本研究では地盤特性の連続的評価を目的に連続的な地盤特性を把握可能な表面波探査手法を用いて地盤構造(2次元S波速度構造)を推定し,その結果を用いて,地盤特性の違いによる地震動特性の違いについて検討した.さらに,地震動分布と被害分布を比較し,木造家屋の被害原因を考察した.
その結果,被害大・中の地域ではS波速度が小さい軟弱な表層が厚く分布し,被害小の地域では軟弱な層は厚く分布していないことが分かった.この結果は当該地域における地形および地質の違いを反映しており,地震被害および2次元S波構造,地形および地質はそれぞれ同様の傾向を示した.したがって,表層地盤における軟弱な層が分厚く分布している地点においては,木造家屋が倒壊に至るほどの大被害が発生する可能性を示唆した.また,地震被害と当該地域の表層地盤特性との比較を行った結果,緩く堆積した分厚い粘土層が木造住宅の地震被害に大きな影響を与えたと考えられる.S波速度と層厚の違いによって地震動の特性に影響を与え木造住宅の被害の程度が狭い範囲で異なることを示唆した.
2022.3 卒業論文

久保田碧人
新潟県周辺で発生した内陸地殻内地震で観測された地震波の周波数特性の分析

日本で毎年多くの被害地震が発生することから,そこからの被害を減らすことは重要な課題であると考えられる.特に地震によって生成される地震波は,建物に大きな影響を与えることから,観測記録に含まれる周波数特性を理解することは今後発生が想定される大地震による被害の可能性を検討する上で必要であり,周波数特性を理解することによって大地震の地震発生後だけでなく,地震発生前においても建物の対策に繋がると考えられる.
本研究では,近年発生したマグニチュード6クラスの大地震で観測された記録を解析し,その記録の持つ周波数特性の分析を行った.
観測記録の周波数特性を分析する手法としてはランニングスペクトルを用いた.
ランニングスペクトルの計算では,新潟県中越地震,新潟県中越沖地震,長野県北部の地震,栃木県北部の地震,山形県沖の地震の5つを対象に,解析の対象地点であるKNET長岡地点(NIG017)で観測された記録を強震観測網(K-NET,KiK-net)からダウンロードしたパラメータを使用した.ダウンロードした観測記録は強震動ツールSMDA2を使用して解析した.解析結果は,観測点(NIG017)から見て南方向に位置する長野県北部の地震,新潟県中越地震,栃木県北部の地震をグループ1.北方向に位置する山形県沖の地震と新潟県中越沖地震をグループ2に分けて考察を行った.
解析結果から,グループ1(新潟県中越地震,長野県北部の地震,栃木県北部の地震)では,高周波数帯域の成分は卓越していて,NIG017では比較的強い揺れを感じやすかったと考えられる.また,地震波の伝わり方から固い地盤を通過してきたと考えられる.
グループ2(新潟県中越沖地震,山形県沖の地震)では,グループ1と比較してそれほど高周波数帯域の成分は卓越せず,強い揺れは感じにくいと考えられる.また,地震波の伝わり方から,軟弱な地盤を通過してきたと考えられる.
本研究では,観測点を新潟県の長岡地点(NIG017)に着目し,そこで記録が得られた5つの地震を対象に解析を行った.今後,より詳細な周波数特性の分析を行うためには,より多くの到来方向や規模の異なる地震を増やして解析を行うことが重要だと考えられる.
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津野聖悟
液状化地盤に対する等価線形解析手法の適用性に関する研究

近年発生した地震では地震動によって引き起こされる液状化の被害が多数報告されている.液状化の被害が発生することを防ぐために,液状化地盤の挙動を把握することが重要である.しかしながら液状化地盤の挙動を詳細に把握することは困難であり,地震応答解析を行う必要があるのが現状である.現状として液状化地盤の地震応答解析には地盤の非線形性や間隙水圧の発生を考慮する有効応力非線形解析が用いられている.しかしながら,必要なパラメータの設定が難しいことやパラメータ数も多いことから非常に難しく労力のかかる解析法である.ところで,より簡易な方法でありながら実務で一般的に用いられている地震応答解析の手法として等価線形解析がある.この解析手法を液状化地盤に適用することができるならば非常に有効であるが,液状化を引き起こすような大ひずみの地震には適応が難しいとされている.そのため,等価線形解析を液状化地盤に適用するため,求める解を設計等に用いるために重要な指標であるが経時的に変化しない最大加速度・最大速度に限定し検討を行う.本研究では,等価線形解析において重要なはたらきをするパラメータでありながら決定方法が曖昧である有効ひずみ係数に着目し,液状化時の最大加速度・速度を求めることができる値を決定することを目的とした.この検討を行うにあたり,実際に液状化した地点であり,解析に必要なデータがあることを条件に1995年の兵庫県南部地震におけるポートアイランドを対象とした.観測記録等より,地盤のモデルを作成し,入力地震動を決定した後,有効ひずみ係数を0.05刻みで0.3から1.0まで変化させながら解析を行った.
解析の結果,最大速度に関しては誤差が大きすぎたため有効ひずみ係数を決定することはできなかった.一方,最大加速度に関してはN-S方向で0.7E-W方向で0.55が誤差最少であった.2方向で異なる結果となったため,設計等に用いる際に安全側にするため相対誤差が正であることを条件に誤差が最少であった0.5を最適な有効ひずみ係数と決定した.また,有効ひずみ係数を0.5と設定した際の解析結果と観測記録の加速度波形の一致度についても確認したが,最大値を記録した地点など液状化の程度が小さいとされる区間においては当てはまりがよかった.この値はあくまでも最大加速度を求めることにおいて有効である.
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西島有貴
新潟県周辺で発生した内陸地殻内地震の距離減衰特性の分析

地震の揺れは一般的に震源から離れた場所ほど小さくなる.この現象は距離減衰と呼ばれており,地震動評価手法の1つに,この特性に着目した距離減衰式がある.距離減衰式では精密な評価は難しいものの,地震の規模を表すマグニチュード,震源からの距離が得られれば対象地点での最大地震動を推定できることから,非常に簡便な手法として広く用いられている.本研究ではこの距離減衰式に着目し,日本で標準的に使用されている司・翠川(1999)の距離減衰式を基本式とした.この基本式をもとに,本研究では,距離減衰式から推定された最大加速度、最大速度と実際に観測されたデータとの比較を行い,新潟県周辺の距離減衰特性を分析した.また,地震動の到来方向や新潟県周辺の地盤構造が距離減衰に及ぼす影響についても分析した.
観測点と対象地震を決定した後,地震データを強震観測網(K-NET,KiK-net),広帯域地震観測網(F-net)を使用して,距離減衰式に入力するために必要なデータを収集した.本研究では,対象地震を2004年新潟県中越地震,2007年新潟県中越沖地震,2011年長野県・新潟県県境付近の地震,2013年栃木県北部の地震,2014年長野県北部の地震,2019年山形県沖の地震とした.収集した地震データから,断層面の決定,緯度・経度の直行座標(UTM座標)への変換等を行い,断層とサイト(強震観測網の観測点)との幾何学的な最短距離である断層面最短距離を計算した.また,この断層面最短距離を使い,最大加速度・最大速度それぞれの距離減衰曲線を作成し,観測点との比較をおこなった. 最大加速度,最大速度の解析結果から,2004年新潟県中越地震と2019年山形県沖の地震については,最大加速度(PGA),最大速度(PGV)ともに観測記録を過大評価する(距離減衰が想定よりも少ない)傾向を示した.一方,2007年新潟県中越沖地震,2011年長野県・新潟県県境付近の地震,2013年栃木県北部の地震については,最大加速度(PGA),最大速度(PGV)ともに観測記録を過小評価している(距離減衰が想定よりも大きい)傾向を示した. これらの傾向は,地震波が通る地盤の影響を強く受けることが分かった.
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