単層電気的メタマテリアルにおける電磁波の完全吸収現象



 「単層のメタマテリアルにおいて電磁波の完全吸収現象を実現するためには、電気双極子と磁気双極子のように、複数種の応答を示すメタマテリアルを設計する必要がある」というのがこれまでの常識でしたが、電気双極子しか誘起されない単層メタマテリアルにおいて完全吸収現象が実現できることを明らかにしました。ここで用いたのは、これまでに研究してきたブリュースターメタ薄膜(こちらを参照)です。完全吸収現象実現のためには、
  1. 反射率が0であること
  2. 電磁波とメタマテリアルの相互作用の大きさとメタマテリアルにおける損失の大きさが同じであること
の2点が必要です。ブリュースターメタ薄膜においては、1の条件は周波数によらず満たされます。2の電磁波とメタマテリアルの相互作用の大きさについては、図(a)のθによって変えられる(sin22θに比例する)ことを示したのが、この研究のポイントです。図(b)のようなメタ原子を図(c)のように並べてブリュースターメタ薄膜を作製し、θを変えながらその透過率を測定した結果が図(d)です。θの大きさをちょうどよくする(この場合はθ=9°にする)と、8GHz付近で透過率がおおよそ0になっていることがわかります。反射率も0なので、完全吸収現象が実現できているということになります。θを調整するだけで完全吸収現象が生じるという性質を上手く使うと、損失性物質の高感度センシングが実現できると考えています。

【論文】
Y. Tamayama and T. Hoshino, "Observation of zero-transmission dip in a single-layer electric metamaterial with finite non-radiative loss," Appl. Phys. Lett. 125, 041701 (2024).
(DOI: 10.1063/5.0207068) (購読契約をしていなくても、リンク先の「CHORUS」と書かれている部分をクリックすればAccepted Manuscriptが無料でダウンロードできます)

ブリュースターメタ薄膜を用いた直線偏光基底での複素透過スペクトル制御



 厚さがメタ原子1層分であるようなメタマテリアル(以下、メタ薄膜)におけるブリュースター現象を利用した電磁波制御に関する研究(こちらを参照)を偏光制御も含めた形に拡張できることを示しました。電気双極子しか誘起されないメタ薄膜を図(a)のように2つのブロック(メタマテリアル1とメタマテリアル2、それぞれは複数層のメタ薄膜で構成)に分けて配置することで、直交する直線偏光に対する複素透過率を独立に制御できるというアイデアを提案しました。そしてその実証として、メタマテリアル1と2を構成するメタ薄膜の共振周波数のずらし具合を変化させるだけで、図(b), (c)のような高効率広帯域1/4波長板および半波長板が実現できることを示しました。この考え方を利用すると、メタマテリアル1および2を構成するメタ薄膜の複素透過率の単純な積という形で直線偏光基底での複素透過スペクトルを設計できるので、様々な周波数依存性をもつ異方性媒質が容易に実現できるようになり、広帯域な電磁波をより有効に活用できるようになると考えています。 

【論文】
Y. Tamayama, "Controlling the polarization dependence of the complex transmission spectrum using the Brewster effect in metafilms," Opt. Express 30, 33655 (2023).
(DOI: 10.1364/OE.501281) (オープンアクセス)

ブリュースターメタ薄膜を用いた広帯域群遅延制御

 


 1層のメタ原子層で構成されるメタマテリアル(以下、メタ薄膜)におけるブリュースター現象(こちらの研究とも関連)を利用することにより、広帯域に亘って電磁波の群遅延が制御できることを実証しました。この方法により実現できる遅延帯域幅積(群遅延の最大値と群遅延が最大値の1/2以上であるような周波数範囲の積)としては、理論上、無限大も可能となっており、電磁波パルス伝搬制御をはじめとした電磁波応用技術の発展に役立つと考えています。
 (a) メタ薄膜の構成要素(メタ原子)として用いたミアンダ型共振器の構造。(b) メタ薄膜においてブリュースター現象を発生させる(周波数に依らず反射率を0にする)ためのメタ原子の配置法。(c) メタ薄膜を積層させる際の配置法。(d) 作製したメタ薄膜の写真。 (e)-(g) wmを変化させたときのメタ薄膜の透過特性。(h) (e)-(g)のメタ薄膜を1層ずつ積層させた時の透過特性。(e)-(h)において、実線は測定値、破線は数値計算結果を表しています。各メタ薄膜の反射率が周波数に依らず0であることから、3層積層させた場合のトータルの群遅延は各メタ薄膜の群遅延の和に等しくなっています。この結果は、複数のメタ薄膜を単純に積層させるだけで、群遅延の周波数依存性を自在に制御できることを意味しています。

【論文】
Y. Tamayama and H. Yamamoto, "Broadband Control of Group Delay Using the Brewster Effect in Metafilms," Phys. Rev. Appl. 18, 014029 (2022).
(DOI: 10.1103/PhysRevApplied.18.014029) (著者最終版: arXiv:2208.12555)

メタ分子への低パワー電磁波の照射による気体の絶縁破壊の発生

 


 下記の共振と低群速度伝搬を同時発生させることによる局所電場増強をさらに発展させた研究で、共振と低群速度伝搬を発生させつつ、さらに、局所電場増強部の金属構造を工夫することで、より小さなパワーの電磁波で気体の絶縁破壊を発生させられることを示しました。新たに設計したメタ分子中においては、1kPaのアルゴンガスの絶縁破壊を発生させるのに必要な電磁波のパワーは51mWでした。周波数は色々と異なるものの、携帯電話の最大出力は200mW程度、PHSの場合は80mWであることを考えると(参考: 総務省, 医療機関における携帯電話利用環境構築に関する調査)、かなり小さなパワーの電磁波で気体の絶縁破壊が発生させられていることがわかるかと思います。
 このような、低パワーの電磁波によってメタマテリアル中で引き起こされる気体の絶縁破壊現象は、非線形現象を利用した電磁波制御の高効率化や、省電力でのマイクロプラズマ生成に役立つと考えています。

【論文】
Y. Tamayama and R. Yamada, "Low-power threshold gas discharge by enhanced local electric field in electromagnetically-induced-transparency like metamolecules," J. Phys. D: Appl. Phys. 54, 385103 (2021). (DOI: 10.1088/1361-6463/ac0d50) (著者最終版: arXiv:2108.04684)

光で制御可能な動的メタミラーを含むファブリペロー共振器による電磁波の蓄積と解放

 


 レーザー光の照射により反射率が動的に制御可能なメタマテリアル(動的メタミラー)を使って、ファブリペロー共振器内に蓄えられた電磁波の解放を実現しました。(a) 動的メタミラーの構造。高抵抗シリコン部分へレーザー光を照射すると透過率が高くなり、照射しないときは反射率が高くなります。(b) 実験系の写真。(c) 電磁波の蓄積と解放の実験において、ファブリペロー共振器から放出される電磁波のパワーを測定したもの。-140nsから0sの間にファブリペロー共振器に電磁波を照射して電磁波を蓄積。その後、時間がtdだけ経過した後にレーザー光をメタミラーに照射すると、ファブリペロー共振器内に蓄積された電磁波がパルスとして解放される様子が確認できます。

【論文】
Y. Tamayama and K. Kanari, "Storage and release of electromagnetic waves using a Fabry-Perot resonator that includes an optically tunable metamirror," Phys. Rev. B 102, 035162 (2020). (DOI: 10.1103/PhysRevB.102.035162) (著者最終版: arXiv:2007.15790)

低群速度伝搬に伴う大幅な局所電場増強効果を利用した非線形現象

  • (a)通常時および(b), (c)空気の絶縁破壊発生時のメタマテリアル。金属ギャップ部分において放電に伴う発光が生じています。

  • 入射波の周波数を低周波側から高周波側および高周波側から低周波側へ掃引した場合の透過率の測定結果。破線は放電が発生していないときの透過スペクトル。

  • 空気の絶縁破壊を発生させた状態で、メタマテリアルの透過スペクトルを測定した結果。破線は放電が発生していないときの透過スペクトル。

 電磁波の群速度を遅くすると、電磁波のエネルギー密度が大きくなります。そのため、もし、非線形な応答を示す物質中で電磁波の群速度を遅くすれば、非線形光学現象を効率良く発生させることができるようになります。
 メタマテリアルを用いると、電磁波の群速度を非常に遅くすることができます。例えば、上図(左)(a)のような金属構造で構成されるメタマテリアルにおいては、電磁波の群速度が真空中の光速の1/27000程度まで遅くなります。それに伴って、構造中央のギャップ部分に、入射波の電場振幅の300倍もの大きさの振幅をもつ局所電場が発生します。ここでは、ギャップ部分に存在する空気が非線形な物質として機能します。つまり、空気にある値以上の電場を印加すると絶縁破壊が発生することを利用するというわけです。上図(左)(b), (c)はメタマテリアル中で空気の絶縁破壊が発生している時の写真です。比較的小さな入射パワーで空気の絶縁破壊が発生させられることがわかりました。
 上図(中)は入射波の周波数を掃引して透過率を測定した結果です。ある周波数領域で線形透過率とは異なる透過率が得られているだけでなく、掃引方向によって透過率が異なるという結果も得られています。これは非線形な現象が発生している証拠です。また、上図(右)は放電を発生させた状態で、メタマテリアルの透過スペクトルを測定した結果です。空気の絶縁破壊の発生を制御することによって、メタマテリアルの特性を大きく変化させられることがわかりました。

【論文】
Y. Tamayama et al., "Suppression of narrow-band transparency in a metasurface induced by a strongly enhanced electric field," Phys. Rev. B 92, 125124 (2015). (DOI: 10.1103/PhysRevB.92.125124) (著者最終版: arXiv:1510.02595)

メタ薄膜に対するブリュースター現象

 2つの異なる物質の境界に電磁波が入射したとき、ある入射角において、反射波の偏光が入射波の偏光に依存しなくなるような現象が生じます。この現象はブリュースター現象と呼ばれており、反射型の偏光子や、光共振器内の反射損失の低減などに応用されています。ブリュースター現象はバルクの物質の境界面で生じる現象として知られているわけですが、1メタ原子層で構成されるメタ薄膜においてもブリュースター現象を実現することができることを明らかにしました。
 ここでは、上図のような双異方性スプリットリング共振器で構成されるメタ薄膜を例として、メタ薄膜におけるブリュースター現象を実現するための理論を構築しました。双異方性スプリットリング共振器に電磁波が入射すると、電気双極子モーメントpと磁気モーメントmが誘起されます。pから放射される電磁波は水平偏光であり、y方向には放射されません。一方、mから放射される電磁波は垂直偏光であり、x方向には放射されません。したがって、反射波がy方向に反射されるように、双異方性スプリットリングの配置と入射波の伝搬方向を決めれば(例えば上図の(c)のように)、反射波の偏光は入射波の偏光に依存せず垂直偏光になります。FDTD法を用いてメタ薄膜の反射率の入射角依存性を計算したところ、入射角が45度のときのみ反射波の偏光が入射波の偏光に依存せず垂直偏光になることが確かめられました。
 バルクの物質におけるブリュースター現象は反射型の偏光子という一面をもっているわけですが、ここで示したブリュースター現象は反射型の偏光子と偏光変換子を足したような性質をもっています。このことは、メタ薄膜においては、バルクの物質においては観測されていないようなブリュースター現象が実現できるということを示唆しています。

【論文】
Y. Tamayama, "Brewster effect in metafilms composed of bi-anisotropic split-ring resonators," Opt. Lett., 40, 1382 (2015). (DOI: 10.1364/OL.40.001382) (著者最終版: arXiv:1503.06899)

結合共振メタマテリアルによる半透過・半反射の直線偏光-円偏光変換子

半透過・半反射の直線偏光-円偏光変換メタマテリアルの単位構造。この単位構造を波数ベクトルに対して垂直な平面内に周期的に配置することによりメタマテリアルを形成。

 結合共振器で構成されるメタマテリアルに、直線偏光の電磁波を入射すると、入射パワーの半分が反射、半分が透過し、かつ、反射波と透過波は同じヘリシティーをもつ円偏光(注1)になるような現象が生じうることを、理論解析およびFDTD法を用いた電磁界シミュレーションにより発見しました。

(注1)波数ベクトルの方向を見た時、電場ベクトルの回転方向が同じ円偏光

 まず、結合共振器を電気回路でモデル化し、電気回路に流れる電流の計算を行いました。その結果、共振器の結合強度を適当な値に設定すると、各共振器に流れる電流の大きさが同じで位相差が90度になることがわかりました。これは結合共振器が円偏光の電磁波を放射することに対応します。さらに、電流の大きさについて検討したところ、反射率と透過率がともに1/2になることもわかりました。
 電気回路モデルを基にして、上図のような2つのスプリットリング共振器を結合した構造で構成されるメタマテリアルを設計し、FDTD法を用いて反射・透過特性を解析しました。2つのスプリットリング共振器間の距離をある大きさにすると、直線偏光の電磁波を入射したとき、半分が反射、半分が透過し、さらに、反射波と透過波は同じヘリシティーをもつ円偏光になることが確認できました。
 ここで得られた結果を発展させると、円偏光ビームスプリッターのような素子が実現できるかもしれません。

【論文】
Y. Tamayama et al., "A linear-to-circular polarization converter with half transmission and half reflection using a single-layered metamaterial," Appl. Phys. Lett. 105, 021110 (2014). (DOI: 10.1063/1.4890623) (著者最終版: arXiv:1412.4850)

間接結合を導入した結合共振メタマテリアル

メタマテリアルの構成要素として金属カットワイヤーペアを用いると、カットワイヤー共振器単独の共振線幅に比べてはるかに狭い透過帯(注1)が実現でき、群速度を真空中の光速の1/14000程度に低減できることを、FDTD法を利用した電磁界シミュレーションにより見出しました。

注1)周波数帯域の狭い透過帯では、屈折率の周波数に対する変化率が非常に大きくなります。

通常、メタ原子の共振線幅は(誘電損失やジュール損失が十分小さければ)主にメタ原子からの電磁波の放射損失で決まります。そのため、狭い透過帯を実現するためには放射損失の小さい(Q値の高い)共振器を用いる必要があります。ところが、放射損失の小さいメタ原子の構造は複雑になる傾向にあり、設計や作製が困難になります。

 本研究では、2種のメタ原子が結合したようなメタ分子において、メタ原子間に間接結合と呼ばれる放射モードを介した結合を誘起させた状況について考察しました。その結果、メタ分子としての実効的な放射損失がメタ原子の放射損失に比べて小さくできることがわかりました。考察した結果を基にして、カットワイヤーペアメタマテリアルを設計し、FDTD法を用いてメタマテリアルの透過特性を解析したところ、透過ピーク周波数では群速度が真空中の光速の1/14000程度になることがわかりました。

【論文】
Y. Tamayama et al., "Electromagnetically induced transparency like transmission in a metamaterial composed of cut-wire pairs with indirect coupling," Phys. Rev. B 89, 075120 (2014). (DOI: 10.1103/PhysRevB.89.075120) (著者最終版: arXiv:1403.0400)

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