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 ミキサー誤起動による作業者死亡事故
「安全と健康」誌 2009年1月1日発行

 プロフィール

◇ 教授 杉本 旭 (すぎもと のぼる)

1971年早大(院修士)。同年労働省産業安全研究所。 2001年北九州市立大学国際環境工学部教授。2002年NPO安全工学研究所理事長、2006年長岡技術工学大学システム安全系教授。 博士(工学)。ISO/TC199国内委員長


◇ 准教授 福田 隆文 (ふくだ たかふみ)

1979年横浜国大工学部卒、同年東洋電機製造(株)。 1987年横浜国大助手。同講師を経て、2006年長岡技術科学大学システム安全系准教授。博士(工学)。IEC/TC44国内委員副主査。



約18年前、東京湾横断道路工事現場で、ミキサー内に作業者がいるにもかかわらず起動され、死亡事故が発生した。 作業後に忘れ物を取りに戻ったとき、いつもより早い時間に起動されてしまったという、いわば偶然が重なった結果であった。 国際安全規格で求められている「安全の通報があって初めて起動を可能にする」設備、という視点で考えてみる。

▽ 偶然が重なった事故

今では観光スポットとなっている「海ほたる」もある東京湾横断道路。 この道路工事の東工事区域(川崎市川崎区の洋上)で、1990年10月29日午後1時45分ごろ、作業員2人の死亡事故が発生した。 コンクリートミキサー(直径2m、高さ2.5m)内の清掃完了後、結婚指輪を忘れて取りに戻った作業者とそれについて戻ったもう1人の作業者が、 たった数秒の運転ではあったが、不意に起動したミキサー内で頭や首を強打して、即死した。ミキサー内で作業するときは、「作業中」の札をかけ、 運転員はこの札がかかっていないことを確認してから起動することになっていた。この現場では、徹底した安全教育により、この手順は守られ、事実1989年5月着工後1年半は無事故であった。 しかし、事故の日は、清掃作業が早く終わったが、(1) 作業後忘れ物を取りにミキサー内に戻り、(2) しかも、そのときに札を再度かけるのを忘れ、 (3) 運転定刻前であるが札がないので起動した、ことが重なってしまった。


▽ 機械・設備にまかせる安全の仕組み

国際安全規格の考え方によれば、「安全の確認」があって初めて運転できる仕組みが組み込まれていることが必要である。 札による「危険の通報」では、作業者が札の掲示を忘れれば起動が許可されるし、札がかかっていても運転員が見落とせばやはり起動されてしまう。 安全教育で補って事故の発生確率を下げることはできても、根本的な解決にはならない。この事故であれば、ミキサーの入口ドアに、ドア閉のときのみ安全を通報し、 それを受けたときのみ運転員の起動操作が有効となる仕組みを設置してあれば、事故は防げた。この仕組みの原理を図に示す。このように、 「安全の通報に基づく起動の許可(通報が途切れれば、たとえ実際には安全でも起動しない)」と「危険の通報による起動の停止(通報が途切れれば、たとえ実際には危険でも起動できる)」では、雲泥の差がある。
この事故からすでに18年が経過しているが、作業現場では、いまだに作業者の注意に頼っている機械・設備が多い。しかし、作業者のミスは不可避であって、いずれ悪い偶然が重なり事故となる。 国際安全規格ISO12100などの示す安全のつくり方に従った起動の仕組み、つまり「機械・設備にまかせる安全の仕組み」を取り入れ、安全性向上を図りたい。 こうすることで、作業に専念できるようになるので、実は効率も向上可能となる。



図 安全信号の伝達による起動-安全確認型システム








 
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