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 余部鉄橋回送列車転落事故
「安全と健康」誌 2009年2月1日発行

 プロフィール

◇ 准教授 福田 隆文 (ふくだ たかふみ)

1979年横浜国大工学部卒、同年東洋電機製造(株)。 1987年横浜国大助手。同講師を経て、2006年長岡技術科学大学システム安全系准教授。博士(工学)。IEC/TC44国内委員副主査。



 旧国鉄時代最後の年末、山陰本線余部(あまるべ)鉄橋で回送列車が強風にあおられ転落し、乗務員と鉄橋下の工場の従業員6人が亡くなった。 裁判では、「基準風速を超えたのに当直列車指令員が適切に列車を停止させてなかったこと」が原因であると判断された。労働現場においても、 人のご判断による事故はまれなことではない。この事故から学教訓はなんであろうか。

▽ 風を軽視する慣行と転落防止柵のない鉄橋

余部鉄橋は大正時代に竣工(じゅんこう)したもので、朱色の鉄橋が周囲の景観とも相まって絶景スポットとなっている。 現在掛け替え中であり、昨年はその最後の様子を撮影しようと、鉄道ファンが詰めかけた。鉄橋の両脇には列車転落防止の柵はなく、 強度上の問題で追加設置もできないとされ、列車の転落の危険性を有していた。昭和61年12月28日、その当時の観測史上4番目の強風が吹いて、 お座敷車両で編成された回送列車が転落した。
CTC(列車集中制御装置)センターでは、この鉄橋の運行停止基準(25m/秒)以上の風速になると、警報が鳴動し警告灯も点灯するようになっており、 指令員はそれに基づいて列車停止措置をする規定になっていた。しかし、風速やその変化は、記録計の設置されている香住駅に間合せないと分からず、 日常的に風速を問い合わせてから列車停止の手配を行うのが慣行となっていたし、事故当日もそのようにした。裁判では、列車停止を素早く行うべきであり、 また行えば列車は停止できたとして、指令員などを有罪とした。しかし、起訴された3人の指令員がその慣行に従ったのは無理もないとして執行猶予を付した。


▽ 人による管理の難しさ

実は、事故1カ月半前、2つある風速計のうち、大きな風速となる場所の一基が壊れ、未修理のままであった。 また、以前は風速計と連動して列車停止の信号を直接出す仕組みになっていたのが、途中から運転指令員を介するようになった。 この鉄橋は、強風にさらされるという地理的条件と転落防止柵がないという構造上の点から、他の場所の運転規制風速が30m/秒のところを25m/秒としていた。 つまり、当初は風に対して配慮をしていたが、だんだんと曖昧(あいまい)になり、風速計の修理までも時間を要すような状況となっていたのである。 やはり、人による管理には難しさがあり、この点は労働安全の分野でも共通である。


▽ 安全確認型のシステムが重要

安全のキーとなるポイントは、人による管理でなく、八一ドウエアとして安全管理を極力組み込むことである。
さらに、前号で安全確認信号を得て運転するシステムの構築が大切と記した。この事例のように風速が大きいという危険状態を検知するシステムであれば、 信号線の断線など考慮して、安全なほど高い出力(風速が低いほど高い電圧)が出るようにし、出力がある値以上であることをもって安全信号としたい。 それが無理であれば、風速計測直後に、危険状態でない場合に「安全信号」への変換を行う(風速が25m/秒より低いときに「安全信号」を出す)こととし、 以降「安全信号」がなければ運転が停止されるシステムとするようにしたい。






 
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