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 東京温泉施設ガス爆発事故
「安全と健康」誌 2009年9月1日発行

 プロフィール

◇ 准教授 福田 隆文 (ふくだ たかぶみ)

1979年横浜国大工学部卒、同年東洋電機製造(株)。 1987年横浜国大助手。同講師を経て、2006年長岡技術科学大学システム安全系准教授。博士(工学)。IEC/TC44国内委員副主査。



東京都内の温泉施設で爆発があり、多数の死傷者が出る惨事となった。温泉とともに汲(く)み上げられたメタンガスが機械室に充満し、 何らかの火花で爆発したのが原因と考えられている。しかし、配管のメンテナンスについて施工業者から施段所有者に伝えられていない、 ガス濃度のチェックは誰が行うかがあいまいなまま操業していた等、管理上の根本的な問題があった。 本事故は、設備の安全のためには情報の伝達と管理が重要であることを示している。

▽ 汲み上げた温泉に含まれていたメタンガスが爆発

平成19年6月19日午後2時ごろ、東京渋谷の女性専用スパで爆発事故が発生した。爆発は地下の機械室で起こり、1階にいた従業員らが被災し、3人が死亡、8人が負傷した。 なお、浴室など客設備は幸いにも別棟になっていた。建物は爆発により壁、屋根などが跡形もなくなり、骨組みだけの無残な姿となった。
このスパは、食事、宿泪もできる女性専用施設で、女性にとって快適な場所・サービスを提供するものであった。しがし一転して、ここで爆発が起こるなど、 利用客はおろか従業員の誰一人として考えていなかったであろう。原因は、源泉と一緒に汲み上げられたメタンガスを十分排気できず、 機械室に充満したところに何らかの火花が発生し爆発したものと推定されている。類似事故があったこともあり、この設備の設計の際にガスの危険性は認識され、 換気(吸気・排気)設備などもあった。しかし、新聞報道によれば、@設計図面と実際の設備に違いがあり、吸気口が設置されていない、 A渋谷区役所に提出されていた図面ではガス検知器が記載されていたが実際にはなく、この図面自体、設計業者とは別の業者の見積り用であった、 B工事途中で排気場所の設計変更がなされ、配管形状から配管内に水がたまりガスがうまく排出されない可能性があったため、水抜きが必要となっていたが、 施設所有者にその旨が連絡されていながった、Cガス濃度などの管理について、施設所有者は外部業者に委託したと主張し、 設備管理会社はガス関連の管理は受託していないと主張するなど筐理上の役割認識がくい違い、多くの問題が浮かび上がった。


▽ 安全のための管理の重要性

この事故は、設備の補助的な部分の管理がおざなりにされた結果起きたと考えられる。温泉の供給や客が入浴に直接使う設備の管理は営業に直結しているので、 設置時に十分配慮し実施されていたであろう。しかし、サービスに直結しないような安全面の管理には十分な資源が振り向けられないことがある。 また、この事故でも問題になったように、設備設計者・施工者・管理会社と発注者(施設所有者)との間で、管理に必要な情報伝達の不備や理解のくい違いが生ずることがある。
残留リスク、つまり設備に残っている危険性は何であって、そのために必要となる管理活動はなにか、それは誰が、どの程度の頻度で行うのかを意識して協議・検討し、きちんと文書化し、 それに従って実施体制を構築し、その実施を定期的に確認することが肝心である。そのためには、設備設計者は所有者に安全に関する十分な情報を提供する、逆に所有者は設計者に提供を求めることが重要である。 このことは、「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」にも盛り込まれており、産業現場においても重要であることを強調したい)。






 
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