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 製麺機の事故例に学ぶ、安全確認の原則に基づく設計
「安全と健康」誌 2010年1月1日発行

 プロフィール

◇ 教授 杉本 旭 (すぎもと のぼる)

1971年早大(院修士)修了。同年労働省産業安全研究所。2001年北九州市立大学国際環境工学部教授。 2002年NPO安全工学研究所理事長、2006年長岡技術科学大学システム安全系教授。博士(工学)。ISO/TC199国内委員長


▽ 安全確認型の原則

安全には、「安全確認の原則」がある。①安全は、確認されて初めて「安全」であることが認められ、②危険を伴う行為(運転)は、安全が確認できないときは実行しない、という原則である。 これは、賭け(不安な実行)を許さないとする確定論の立場であるが、これを徹底すれば事故は決して起こらない。逆に、事故が起こるとしたら、安全を確認しないまま行為を実行した場合である。 事故の原因調査はこの状況を調査することであり、再発防止のためには、あらためて安全確認をしっかりできるようにしたものに作り替えるということになる。
ここでは、この原則に準拠しないで起こった事故は、それに気づかなければいつまでたっても解決しないという例をあげよう。


▽ 製麺機による指切断事故

昭和63年7月に起こった製麺機のカッターによる指切断災害である。PL法以前に起こったこの製品事故は、泥沼裁判の典型となった。設計者の「私が設計した機械でこんな事故は起こるはずがない」、 被害者の「それではなぜこの事故は起こったのか」という主張のしあいで3年間を費やし、この間、それ以上の実のある議論はほとんどなかった。
筆者が産業安全研究所に所属していた時代、筆者の「安全」についての武器は「安全確認の原則」であった。事故の原因・調査のときには、これが特に大きな武器となった。 機械設備の制御部等の「安全確認→運転OK」を仕込んだ部分を取り出し、そこに危険側故障、つまり誤って起動を生ずるような故障がないかを探すのである。
さて、問題の事故だが、カッターが回転して麺を一定の長さに切るという自動運転時には、スライダー(麺のスライド機構)がガードの代わりとなって手の入るすき間はない。 清掃のためスライダーを開くとリミットスイッチ(LS)がOFF信号となりカッターが停止する。ところが、停止中のカッターが不意に回転して、清掃作業者の指切断事故が起こったのだ。


▽ 原因調査

もともと、LSがOFF信号のままではカッターが動くはずはないのだが、どこかに危険側故障が潜んでいたというわけである。
原因調査を依頼されてチェックしてみると、不意に起動を生ずるような危険側故障が難なく見つかった。終わりの見えない争議が、たった1曰の調査で解決したわけだが、それは筆者の武器「安全確認の原則」の威力にほかならない。 下記の図を参照いただきたいが、簡単に言うと「起動スイッチと停止スイッチを同時に押したら運転状態はどうなるか?」の問題で、カッターが起動しようとする瞬間にLSのOFF信号が入った場合に不意に起動する不安が潜んでいた。 本裁判の関係者全員に集まっていただき、目の前で、カッターが回転する瞬間を確認してもらった。
この問題を確率やリスクの問題として処理しようとする人がいたら、安全確認の原則で「確認なくして安全というな」と無責任を戒めてほしいと思う。


図 製麺機事故の原因



カバーを開けると、リミットスイッチによりストッパーが作動し、回転軸を止める機構になっていた。しかし、起動状態でカバーを開けると、ストッパーが不安定な状態になる場合(C)があり、 この場合は、わずかなショックでストッパーがはずれ、起動することが判明した。






 
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