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 風力発電用風車の倒壊事故  〜保守における意識差〜
「安全と健康」誌 2010年11月1日発行

 プロフィール

◇ 教授 武藤 睦治 (むとう よしはる)

1976年大阪大学大学院博士課程修了、助手を務めた後、1978年より長岡技術科学大学機械系助手、 助教授、教授、2006年より同システム安全系教授。事故解析、強度信頼性に関する研究・教育に従事。


◇ 特任講師 大塚 雄市(おおつか ゆういち)

2007年九州大学大学院工学府機械科学専攻博士課程修了、博士(工学)。 同年長岡技科学大学産学融合トップランナー養成センター特任講師、現在に至る。信頼性・安全性設計システム、安全管理システムの研究に従事。


▽ 停止中の風車の倒壊

 2007年1月8日、青森県東通村岩屋地区の風力発電設備で倒壊事故が発生した。この風車は1月に発電系統の故障のため停止中であり、風車翼が風による荷重を受けない状態にするために、 固定ブロックを用いてアイドリング状態注1)としていた。しかし、このブロックの固定が不十分であったために、脱落して油圧系統を損傷させた。 そのため翼のピッチ角度を制御していた油圧が失われ、2つの翼がファイン状態注2)となり、ローターが過回転(事故時は定格の倍の38rpm)した。 このため、風車基礎部にかかるモーメントが耐力以上となり基礎部が破壊し、倒壊に至った。 


▽ フェールセーフ(安全側故障)の重要性

 この事例では、アイドリング時の風車の信頼性の確保のために、油圧によるピッチ角制御と固定ブロックという二重の対策が施されていたが、事故時はどちらの機能も喪失状態であった。 その場合、過回転が生じることは事故後の解析結果からも明らかである。事故の最終報告書でも挙げられているとおり、油圧の異常を検知してブレーキをかけるなどの、故障時に安全状態を保つ対策が必要であったと考えられる。 また、過回転時に負荷を支えるアンカーボルトについて、引き抜きによる実性能の検討が行われていない。アンカーボルトの耐力が、定格回転数の2倍で破損するという低い設計裕度しか持っていなかったことについては疑問が残る。 油圧制御という安全機能について、フェールセーフの検討がもう少し必要だったのではないか。デンマーク製の風車を、風況がまったく異なる日本で利用したが、設計している条件自体が大きく異なれば、その影響は当然検討する必要がある。


▽ 保守における設計者と作業者の乖離(かいり)

 設計者は、自身が設計した部品が当然その機能を発揮することを期待する。しかし、それは保守を行う作業者の協力が前提である。本事例でも、固定ブロックという安全上重要な部位について、 実際の作業内容がマニュアルから逸脱し、その固定にトルクレンチが使用されていなかった。設計者が当然のこととして要求する作業が、実は風車の信頼性確保上不可欠な作業であることが、 果たして作業者に認識されていたのであろうか(実際、この作業の失敗によってボルトの耐力を超える負荷を受けている)。保守点検において、締め具のトラブルは特に注目されるエラーである。 設計者自身が、保守点検でのエラーの防止として、エラーに対応した作業指示書などの工夫を行っていく必要がある。一般機械においても、保守点検を作業者に求めながらその内容を省略するなど、 保守の重要性を自らが貶(おとし)めているようなマニュアノレが少なくない。保守点検おけるトラブル防止のためには、設計者と作業者が協調して、保守点検のリスク評価を行わなければならないのである。


  注1)主軸ブレーキを開放してロックし、固定ブロックを用いて3つの翼が風の流れる方向と平行になる
     ようにして風を逃がす状態(フェザリング状態)
  注2)翼面が風の方向に垂直で、風を最も受け止めやすい状態







 
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