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 化学プラントの大規模火災
「安全と健康」誌 2010年3月1日発行

 プロフィール

◇ 教授 門脇 敏 (かどわき さとし)

1986年筑波大学大学院工学研究科修了、工学博士。同年名古屋エ業大学助手。 同講師を経て、2000年長岡技術科学大学機械系助教授。2006年システム安全系教授。専門は燃焼学。


▽ 化学プラントの大規模火災

 2007年12月、茨城県神栖市(かみす)にある化学プラントで大規模火災が発生し、4人の方が亡なられた。 この化学プラントでは、ナフサ(粗製ガソリン)や灯油などを原料として、石油化学製品の基礎原料であるエチレンなどを生産していた。 火災発生時には、配管のメンテナンス作業が行われていた。作業中にバルブが突然開いて多量の油注)が漏れ出し、それが発火して大規模な火災に至った。
 この火災事故は、事業場のみらず社会的影響も大きかった。それゆえ茨城県は、大学や総務省消防庁の専門家も加えた火災事故調査等委員会を設置し、 事故原因や再発防止策の調査・検討を行った。


▽ 火災の発生原因と再発防止策

 火災の発生は、バルブが突然開いたことによる油の漏えいと、発火源の存在によるものであった。バルブが開いて油が漏えいした原因として、次のことが挙げられている。 @バルブの施錠がなされていなかった、Aバルブ駆動用空気元弁が開いていた、Bバルブの操作スイッチがオンになった。 これらのことが同時に発生してバルブが開き、多量の油の漏えいにつながったものである。また、可能性のある発火源として、1)電気火花、2)静電気火花、3)高温配管等の熱面、 が挙げられている。しかし、発火源の特定には至っていない。
 油の漏えいに対する策として、@バルブ施錠の基準化、Aバルブ駆動用空気元弁の閉・脱圧の基準化、Bバルブ操作スイッチの隔離と防護、が挙げられている。 発火源に対する策として、1)電動工具使用の基準化、2)帯電防止作業服などの着用、3)高温配管等の断熱被覆の状態の点検、が挙げられている。 また、今後の再発防止に必要なこととして、事前のリスク評価とそれに基づくリスク低減対策、ならびにマネジメントの強化が指摘されている。


▽ 労働安全衛生マネジメントシステム

 改正労働安全衛生法が平成18年4月から施行され、それに基づき改正「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針」(厚生労働省告示第113号)が公表されている。 この指針の第14条には緊急事態への対応が明記されており、緊急事態が生じる可能性を評価し、それが発生した場合の労働災害防止措置を事前に定め対応することになっている。 火災の再発防止の上でも、労働安全衛生マネジメントシステムの構築は重要であり、今後、化学プラントでも幅広く行われることが期待される。 労働安全衛生マネジメントシステムを普及させる手段として、中小企業主に対する労災保険の特例メリットや、一部の損害保険会社の労災上乗せ保険等の保険料を割引くなどの制度が実施されているが、 さらなる制度の拡充が必要である。安全確保のために保険制度の積極的な活用を検討すべき時が来ているのではないだろうか。


 注) 漏れ出したのはクエンチオイルという冷却油で、高温の分解ガスに直接噴霧し冷却するため使用される。






 
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