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「安全と健康」誌 2010年5月1日発行
プロフィール
◇ 准教授 木村 哲也 (きむら てつや)
1995年東京工業大学博士課程単位認定退学。神戸大学助手、大阪府立大学助手を経て2001年より現職。
システム制御工学と国際安全規格の立場からサービスロボットの安全の研究に取り組む。博士(工学)。
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▽ アクセルペダルが戻らず事故 〜大規模リコールへ〜
2009年8月28日、アメリカ・カリフォルニア州の高速道路を走る高級車レクサスから緊急電話が発せられた。
「アクセルが戻らない、トラブルだ、ブレーキが効かない、交差点に近付いている、つかまって、つかまって、祈って」(訳筆者)。
電話は衝撃音とともに途切れた。この事故で4人の尊い命が失われた。
この事故はくアクセルペダルがフロアマットに干渉して戻らなくなったことが原因とされ、メーカーであるトヨタ自動車(以下トヨタ)は、
アメリカにおいて約400万台に対してリコール(回収・無償修理)を実施した。今年1月には、別の原因でアクセルペダルが戻らなくなる現象が報告され、
230万台に対してリコールが実施された。次いで2月には、新型プリウスのABS*1の不具合が報告され、国内も含め43万台のリコールが実施された。
これらのリコール対応費用は数千億円に達し厳しい経済的損失が生じたとされているが、それとともに、会社としての安全に対する姿勢にも厳しい目が注がれることになった。
2010年2月24日、同社の豊田社長が米議会下院監視・政府改革委員会の公聴会で対応する様子がテレビで放映され、米メディアから「トヨタバッシング」とも呼ばれる厳しい報道が相次ぐことになった。
▽ グローバル化の中で求められる安全
長い自動車産業の歴史の中で、同社は品質で世界的に高い評価を得るようになっており、2008年には新車販売台数で世界一になるなど、日本を代表するグローバル企業である。
そのトヨタが、安全性という自動車の根本的な部分で市場から課題を突き付けられた原因は何か、トヨタ自身の対応策から考えてみたい。
同社は一連のリコールを教訓に「グローバル品質特別委員会」を設置し,アメリカ、欧州、アジアなど全地域での統合的な品質向上活動を開始した。
2010年3月30曰に開かれた第1回委員会では、次の項目が議論された*2.@最適かつスピーディなリコール等の市場処置決定プロセスの構築、A各地域での顧客からの情報収集力の強化、
B情報開示の強化、C顧客情報を反映したさらなる安全技術開発、D人材育成。
これらの項目を安全規格の視点から考えると、@Bは「Honestly and Quicklyの原則」(事故発生時には正直に素早く対応することが最も社会的混乱を防ぐ)に、
ACはリスクアセスメントの「合理的に予見可能な誤使用の明確化」と関連づけられる。すなわち、この2点に関して、社会の安全の要求は、同社の想定を上回っていたと考えられる。
ところで一般に、生産現場では残念ながら「Honestly and Quicklyの原則」に背く労災隠しが見受けられ、また、リスクアセスメントの未実施の生産設備もある。
グローバル化というキーワードを「利用者、価値観の多様化」と考えれば、中小企業を含むすべての企業がグローバル化の波に直面している。
今回の事案に見るグローバルな安全の課題は、実は身近な課題かもしれない。
※1 ABS:アンチロックブレーキシステム
※2 トヨタニュースリリースを筆者が要約
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