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 重機と自然は共生できるか? 〜気まぐれ風に十分な対策を〜
「安全と健康」誌 2010年7月1日発行

 プロフィール

◇ 准教授 阿部 雅二朗 (あべ まさじろう)

1989年九州大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程修了、工学博士。同年長岡技術科学大学助手。 同助教授を経て、2007年同准教授。専門は機械ダイナミクス、安全設計工学。ISO/TC96国内委員会委員長


▽ 強風によるクレーン転倒事故

 屋外で使用するクレーンのような重機は、それを取り巻く自然、すなわち大地および大気とうまく共生できないと安全性を確保できない。 「軟弱な大地」、頻度は少ないが揺れる大地「地震」、さらに、動く大気「風」との共生が求められる。特に、曰常的に対峙(たいじ)する風との共生への対策は不可欠である。
 平成22年初めに、東京都で風による移動式クレーンの横転事故は起きた。毎日新聞の記事によると、午前9時ごろ、工場建設現場で工事用クレーンが横倒しになり、 近くにいた作業員がクレーンのアーム部分の直撃を受けて、右肩を骨折する重傷を負い、クレーン運転者が足を打ち軽傷を負った。 近くにいた工事関係者は「クレーンのアームを約30m伸ばして約250kgの鉄板をつり上げる作業中に、方向転換をしようとしたら突風にあおられた」と説明しているという。 気象庁によると、当時、現場地域で9時13分に最大瞬間風速26m/秒を観測し、事故発生時も強風が吹いていたとみられるとのことである。


▽ 風への対策

 風は曰常的に吹くので、その対策はすでに取られている。重機側の対策として、例えば、移動式クレーンは風より受ける荷重を考慮して設計・製造されている。 その構造規格によると、風より受ける荷重は風速16m/秒として計算することとされている。風速16m/秒の風は、気象庁が採用している風力階級表では、樹木全体がゆれる、風に向かうと歩きにくい「強風」である。 一方、人間側の対策として、クレーン等安全規則等によると、10分間の平均で風速が10m/秒以上の強風時における作業の中止を定めている。
 風が吹いているときの作業では、つり荷が風から受ける荷重への配慮も重要である。上記の事故の作業では風からの圧力を受ける面積が広い鉄板をつり上げていたため、つり荷が大きく振れたり、回転したりした可能性がある。 クレーンや荷が風から受ける荷重の大きさは、言うまでもなく風速によるが、風速は重機が作業する場所の地形や地表からの高さ、さらに、周囲の建築物環境等の影響を受ける。 このことを考慮して作業を計画し、実施することを忘れてはならない。


▽ 風対策は今後さらに重要に

 異常気象が叫ばれるようになって久しい。突風や竜巻の発生頻度や規模は各地で拡大しつつあるように思える。風は気まぐれである。突風がいつ吹くか等、予測は簡単とは言えない。 当たり前であるが、機械側の対策を強化しつつ、人間側である管理上の対策を怠りなく実行することが基本である。例えば、後者として今後さらに重要になると考えられるものに、 管理者や運転者へ現場の状況に応じた局所的な風の状況等の情報を随時提供するシステムの確立および運用が求められる。情報は正確に伝わらないと意味がなく、風速等提供する情報の定義、 内容等を明確にしておくことにも留意が必要である。
 いずれにしても、自然はますます凶暴になることを念頭におき、できることから改めて始めるしかない。






 
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