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 船倉における酸欠事故 〜法令遵守とリスクアセスメント〜
「安全と健康」誌 2010年9月1日発行

 プロフィール

◇ 教授 福田 隆文 (ふくだ たかぶみ)

1979年横浜国大工学部卒、同年東洋電機製造梶A1987年横浜国大助手。 同講師、長岡技術科学大学システム安全系准教授を経て、2010年の同教授。博士(工学)。IEC/TC44国内委員会主査。


▽ 盲点を突く酸欠事故

1986年8月にカメルーン・ニオス湖周辺住民約1,700人が死亡する自然災害があった。住人が逃げようとした形跡はなかった。 後の調査で、原因は、湖底から噴き出した二酸化炭素が湖水に高い濃度で溶解しており、そのガスが一気に噴出し周辺の空気を排除した結果、 酸欠になったと推定されている。酸欠は目に見えないだけに、逃げることもできなくなる恐れがあるので予防が肝心である。
労働現場でも酸欠による災害が繰り返されている。平成元年から21年までに酸素欠乏症の労働災害で353人が被災し、うち163人が亡くなっている。 これらでは、作業主任者を置かず、酸素濃度測定を行っていない結果の事故、つまり法令を遵守していれば防げた事故が散見される。
一方で、ある程度、法令上の対応がされていたと考えられるケースでも事故が発生している。2009年6月、海外から到着して鉱石運搬船で荷降ろし準備のため船倉に降りた作業員が倒れ、 救助しようと続いて降りた2人も倒れた。消防による救助後、全員の死亡が確認された。船倉は縦24m、横18.5mで、鉱石上面までの深さは9mであり、ハッチ(屋根状のカバー)を開き、 クレーンで作業用重機をすでに下ろしていた。井戸のような筒状の空間でもなく、ハッチも開いていた。さらに、作業前に船倉内6カ所で酸素濃度が測定されており、 20.9%と大気と同等の数値が記録されている。しかし、作業者が降りたタラップ付近は測定されておらず、ハッチの構造から、この個所の酸素濃度が低かった可能性が指摘されている。 この点に事前に気が付ければ、事故は防げた可能性がある。


▽ 法令遵守とリスクアセスメント

労働現場の対応としては、まず労働安全衛生関係法令を遵守することが重要である。労働安全衛生法別表6に規定されている作業場所であれば、 作業主任者を配置するとともに、酸素欠乏症等防止規制(酸欠則)で作業開発前の酸素濃度測定、空気呼吸器等の配備等が規定されている。 これらは、過去の事故から学んだ対策であり、怠れば過去に経験した事故が再び発生しうることを意味している。
一方、法令上の実施事項は一般的な形で示されているため、それを単に実施するのでは対応が漏れる可能性もある。そこで、職場の現状を踏まえた上でリスクアセスメントを行い、 「法令遵守に漏れはなく、現状に合った内容か」「さらに安全性を高める方策はないか」などを見ていくことが重要となる。
リスクアセスメントが普及したことが望ましいが、法令を遵守し基本的な安全確保を実施することがまず前提である。 その上で、さらに安全性を向上させるためにはリスクアセスメントの実施が重要であることを忘れてはならない。
なお、その際には過去の事故事例から学ぶことも大切である。本稿執筆でも参照したが、安全衛生情報センター(http://www.jaish.gr.jp/)には、 さまざまな災害事例が掲載されているので、こういった情報を活用していくことも有効である。






 
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