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 アミューズメント施設での落下事故 〜安全装置を無視したことによる事故〜
「安全と健康」誌 2011年1月1日発行

 プロフィール

◇ 教授 福田 隆文 (ふくだ たかぶみ)

1979年横浜国立大学工学部卒、同年東洋電機製造梶A1987年横浜国大助手。 同講師、長岡技術科学大学システム安全系准教授を経て、2010年同教授。博士(工学)。 IEC/TC44およびISO/TC130の国内委員会主査。


▽ シートベルト末装着の搭乗者が落下

 2005年4月18日午後、東京都内のアミューズメント施設で、下半身が不自由な方が遊具から落下、死亡する事故が起こった。 この遊具は、人の乗った椅子が前傾し、最大約10mまで上昇下降する。このとき、下方からの風を受け、また床面の大型ディスプレーに映し出される地上の映像を見て、 高度1万mからのダイビングを疑似体験できるものであった。
 高い位置で椅子が前傾するため、人の落下対策として、腰部のシートベルトと肩部のハーネスの両方で体を固定するようになっていた。被災者は体が大きく、 シートベルトを装着できず、ハーネスだけを装着して搭乗した。実は、ハーネスを装着しただけで運転することは、それ以前から行われていた。  この日も、運転担当者は、現場責任者に報告していたが、被災者が下半身不自由であることを伝えなかったために、ハーネスの固定をしっかりすればよいと判断されていた。 しかし被災者の場合、足で踏ん張ることができなかったため、椅子が高さ約5mの位置にあったところから落下した。
 この遊具導入時に作成された運営マニュアルには、両方の固定ができない場合、搭乗を断ることになっていたが、運営をしている問にマニュアルが改訂され、 シートベルトが末装着でも例外的に運行を許可する旨が記載されていた。


▽ 機械設備での対応を最優先に考える

 マニュアルの策定にかかわっていた開発者が、その改訂にはかかわっていなかったことが、事故後の社内調査で分かった。 このことは問題であるが、より根本的な対応としては、シートベルトとハーネスが装着されないと運転できないように設備の設計を行うことである。 現場での適切な管理は大切であるが、どうしても搭乗者の希望に添いたいという気持ちと、運用をスムーズにしたい気持ちから、ついつい許容して運転しがちである。
 機械安全の国際規格ISO12100や機械の包括的な安全基準に関する指針が、実施可能なことは機械・設備で対応することを求めているのは、このような理由が大きい。 設計者は安全装置を設置して事故を防ぐと同時に、安全装置があることにより作業がしづらくなることのないように十分配慮しなければならない。そうしないと、 せっかくの安全装置が無効化されてしまう。むしろ、このような配慮をすることで、作業がしやすく、生産性のよい機械・設備、つまり安全性と生産性が両立した設備とすることができる。
 一方、安全帯の装着のように、作業者の自主的な管理が重要なことも多くある。「装着しないで事故なく作業ができたことがあるから」、 「これはちょっとした作業だから」などと考えずに、保護具を常に適正に使用し、いつ事故の芽と遭遇しても大事に至らないようにしたい。






 
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