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「安全と健康」誌 2011年9月1日発行
プロフィール
◇ 教授 門脇 敏 (かどわき さとし)
1986年筑波大学大学院工学研究科修了、工学博士。同年名古屋工業大学助手。
同講師を経て、2000年長岡技術科学大学機械系助教授。2006年システム安全系教授。専門は燃焼学。
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▽ 事故の概要
2011(平成23)年3月11日、東北地方太平洋沖でマグニチュード9の巨大地震が発生した。
その後、広い範囲に巨大津波が打ち寄せ、太平洋沿岸地域は甚大な被害を受けた。
地震発生時、福島第一原子力発電所では3基の原子炉が運転中だった。原子炉は地震直後に自動停止し、外部電源が喪失したため非常用電源により燃料の冷却が開始された。
しかし、約1時間後に原子力発電所を襲った津波により、非常用電源も失われ、電力による燃料の冷却は不可能となった。
原子炉停止後も崩壊熱は発せられ続けたため、燃料周囲の冷却水が蒸発してしまい、冠水が失われて高温となった。
高温の状態で、水蒸気と燃料被覆菅のジルコニウムが化学反応を起こし、水素が発生した。そして、原子炉建屋内で水素と空気が混合し、爆発に至った。
水素爆発により建屋のコンクリート破片などが飛散し、原子炉の冷却や放射能性物質の除去などの復旧作業に大きな支障が生じることとなった。
▽ 防爆対策
水素などの可燃性物質を取り扱う場合、防爆対策の一つとして、ガスを建屋や容器の外へ放出するための弁を設置している。
この弁は、故障や事故などで内圧が高くなったときに開放して圧力を低下させ、建屋や容器が破壊されるのを防ぐためのものである。
この対策は、放射性物質の飛散に直結し放射性物質の閉じ込めを原則としている原子炉では、弁の開放には躊躇や受け入れがたさがあると推察される。
しかし、今回の水素爆発を鑑みると、非常時には水素ガスを放出する方が、爆発の被害や放射線被ばくの観点から、リスクは相対的に低くなると考えられる。
シビアアクシデント対応として、今後の検討を見守りたい。
▽ 安全における多様性を再認識
可燃性物質を取り扱うプラントの安全レベルを高めるために、複数の弁を用いたり、異なるタイプの弁を用いたりする。
このことは、冗長性および多様性と呼ばれている。
一般に、複数の安全装置を用いることにより、リスクは低減される。また、異なる動作原理の安全装置を使用することにより、リスクはさらに低減される。
つまり、電気的システムと機械的システムを組み合わせることにより、リスクの大幅な低減が図れる。
多様性の考え方は、防爆の分野のみならず安全の分野で幅広く認識されている。安全の確保が必須条件である原子力発電所においては、
この考え方を共通の認識とすることが必要である。実際、原子力の専門家からは、多様性を考慮した安全対策が提言されている。
今はまさに、安全によける多様性を再認識するときなのではないだろうか。
筆を置くにあたり、福島の染物「しのぶもぢずり」を織り込んだ美しい恋の歌(小倉百人一首)を記載する。美しい福島の復興への思いを込めて。
陸奥(みちのく)の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし 我ならなくに
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