合成桁の大型実験

「部分係数設計に向けた塑性化を考慮した鋼桁設計法の研究開発」

1.研究の背景・目的

平成29年7月に改定された道路橋示方書(以下,「道示」という)では,設計体系が部分係数設計法へと移行した.また,老朽化橋梁,高齢化橋梁の大規模更新については,今後国内外でニーズが急速に高まることが予想され,今まで以上にコスト縮減が求められている.橋梁の建設コストを縮減するため,橋梁の持っている耐荷性能を最大限活用した合理的で信頼性の高い設計の実現に向けて,終局状態においては,道路橋を構成する部材の一部塑性化を考慮した耐荷力評価法を確立することが望まれる.しかしながら,鋼橋で最も一般的な形式である桁構造の耐荷力評価法は,部材の線形挙動内での評価が中心となっており,昭和48年の道示から40年以上もの間改定されていない.他方,より合理的な設計法の開発が求められているものの,耐荷力に関する研究が不足しているため,新たな設計法を開発する上で,必要な情報が十分に得られていない.

2.研究内容

一般的な鋼桁の研究と比較して高い技術・学術レベルが要求される載荷実験および数値解析によるシミュレーションを実施して,部材の一部塑性化を許容した鋼桁の耐荷力特性に関する情報を収集するとともに,実験・解析結果の他,諸外国における既往の研究,道路橋の設計法に関する情報収集を行い,塑性化を考慮した鋼桁の設計法の提案を行う.H29年度は,合成桁の曲げ耐荷力に着目し,主として,塑性中立軸位置ならびにウェブ幅厚比が曲げ耐荷力に与える影響を把握した.H30年度は,合成桁の曲げ・せん断耐荷力に着目し,主として,ウェブ幅厚比,曲げ・せん断比率,鋼桁と床版の合成効果が曲げ・せん断耐荷力に与える影響を把握した.また,前年度の成果にもとづき,床版ディテールが合成桁の曲げ耐荷力に与える影響についても把握した.R1年度は,橋システムとしての合成桁の挙動ならびに既設橋梁の維持管理における知見を得ることを目的に,床版損傷度をパラメータとし,合成2主桁の曲げ・せん断耐荷力を把握した.

3.研究成果

(1) 合成桁の曲げ耐荷力(H29年度,図1)

3体の合成桁試験体を製作し,4点曲げ試験ならびにFEM解析を実施した.1体目(MY1)は現行道示に基づいてウェブの幅厚比を上限値(Rw=1.2)としたもの,2体目(MY3)は合理化設計に向けてウェブの幅厚比を大きくしたもの(Rw=1.3),3体目(MY4)は塑性中立軸位置が耐荷力特性に与える影響を把握するためにMY1の下フランジの幅を広くしたものである.得られた主たる知見は以下である.

  • 従来の道示設計で全塑性モーメントに達し,降伏モーメント以降の強度を期待できる.ただし,終局時に床版が圧壊して荷重が急減することから,靱性向上に向けては,床版ディテールの検討が必要である.
  • ウェブの幅厚比を緩和しても,塑性中立軸が床版あるいは上フランジ内にあれば,全塑性モーメントに達する.

(2) 合成桁の曲げ・せん断耐荷力(H30年度,図2)

1体の曲げ試験体と4体の曲げ・せん断試験体を製作し,載荷試験ならびにFEM解析を実施した.前者については,H29年度の結果を受け,MY1と同一諸元とし,床版内にグリッド筋を配置したものである.後者の内訳は,従来設計(試験体A, Rw=1.2),ウェブの幅厚比を大きくしたもの(試験体B,Rw=1.4),曲げせん断比率を大きくしたもの(試験体C,Rw=1.4),合成効果の検討に向けて試験体Bと同一諸元で鋼桁と床版間にはく離材を塗布したもの(試験体)である.検討結果から,得られた主たる知見は以下である.

  • 曲げ・せん断比率を大きくしたり,Rwを緩和しても全塑性モーメントに達する.また,床版内の鉄筋配置により,床版圧壊(最大強度)以降も粘り強い構造にできる.
  • いずれのケースでも曲げ耐荷力とせん断耐荷力の間に相関は見られない.
  • 床版と鋼桁の接触面にはく離剤を塗布して合成効果を低減させた試験体でも,剥離剤を塗布しない試験体と同様の荷重-鉛直変位関係ならびに破壊形態を示す.

(3) 合成2主桁の曲げ・せん断耐荷力(R1年度,図3)

改定された道示には,構造システムとしての冗長性を期待して,橋システムの限界状態についても言及されている.そこで,R1年度は,橋システムの限界状態の把握に向け,合成2主桁の載荷試験ならびに解析検討を実施した.実験における載荷方法は,過年度の載荷試験と同様に,T荷重を模した3点曲げ載荷とした.また,RC床版については,既設橋の維持管理に関する知見も得るために,予め定点移動載荷試験を行い,疲労損傷を与えるケースを設けた.その結果,載荷方法や床版損傷の程度に依るものの,RC床版の損傷程度が異なる2体の試験体について,全体的な力学的挙動が1本の合成桁と同様となる傾向がみられた.これは橋システムの限界状態に関する知見のみならず,大規模地震後の緊急車両の走行可否などに関する有益な知見が得られたと言える.

4.主な発表論文

  • Yuxiang Zhang, Weiwei Lin and Heang Lam: NUMERICAL STUDY ON MECHANICAL BEHAVIOR OF INTACT COMPOSITE TWIN I-GIRDER BRIDGES, Proceedings of the 12th Pacific Structural Steel Conference (PSSC2019), 2019.11.
  • 佐藤悠樹,宮下剛,小野潔,方超越,白戸真大,橘肇:限界状態設計法に向けた合成桁の曲げ耐荷力実験,第33回日本道路会議,2019.11.
  • Kang LIU,Weiwei LIN,Kiyoshi ONO,Takeshi MIYASHITA,Masahiro SHIRATO:NUMERICAL STUDY OF COMPOSITE BEAMS SUBJECTED TO COMBINED SHEARAND BENDING,第13回複合・合成構造の活用に関するシンポジウム,2019.11.
  • 方超越,小野潔,宮下剛,白戸真大,佐藤悠樹,橘肇:RC床版と鋼桁上フランジの付着が合成桁の弾塑性挙動に与える影響に関する実験的研究,第13回複合・成構造の活用に関するシンポジウムに関するシンポジウム,2019.11.
  • 方超越,小野潔,宮下剛,白戸真大,佐藤悠樹,橘肇:RC床版と鋼桁上フランジの付着が合成桁の弾塑性挙動に与える影響に関する実験的研究,第13回複合・成構造の活用に関するシンポジウムに関するシンポジウム,2019.11.
  • 宮下剛,松澤和憲,中村洋介,小野潔,林偉偉,野阪克義,北根安雄,白戸真大,橘肇:限界状態設計法に向けた合成桁の載荷実験,第37回土木学会関東支部新潟会研究調査発表会,2019.11.
  • 高橋誠汰,宮下剛,小野潔,林偉偉,野阪克義,北根安雄,白戸真大,橘肇:床版ディテールが合成桁の曲げ耐荷力に与える影響,第74回土木学会年次学術講演会,2019.9.
  • 宮下剛,松澤和憲,小野潔,林偉偉,野阪克義,北根安雄,白戸真大,澤田守,橘肇:部分係数設計に向けた合成桁の曲げ耐荷力実験,第73回土木学会年次学術講演会,2018.8.
  • Heang Lam, Jiawei Chen, Weiwei Lin, Kiyoshi Ono, Takeshi Miyashita: Numerical Study on the Mechanical Behavior of the Steel-Concrete Composite Beam,第73回土木学会年次学術講演会,2018.8.

5.今後の展望

部分係数設計法が導入された道路橋示方書の改定効果を最大化することができ,我が国の道路橋設計の国際的な競争力の向上が期待できる.今後の課題として,負曲げ域や連続桁に対する合成桁の限界状態ならびに評価式の検討が挙げられる.

6.道路政策の質の向上への寄与

道路橋示方書への反映(限界状態の設定ならびに設計法)