設立の経緯と趣旨Background And Purpose Of Establishment

設立の経緯と趣旨

我が国の安全神話の崩壊が叫ばれて久しく,さまざまな事故や大惨事など社会の安全を揺るがす新たな問題が次々と発生しています.長岡技術科学大学では,事故・災害の本質的要因として安全工学に関する教育・研究の欠如が重大であるとの立場から,平成13年度に「機械安全工学(寄附講座)」を設け安全工学に関する研究を進めてまいりました.また,機械安全の国際基本規格であるISO 12100「機械類の安全性-設計のための基本概念、一般原則」の発効により,特に国際規格に適合する安全技術や安全認証に関する体系的な知識・実務能力を有する人材育成が急務であるとの認識から,大学院工学研究科修士課程機械システム工学専攻内に,社会人キャリアアップコース「機械安全工学」を設置(平成14年度)して,安全工学に関する教育を開始いたしました.さらに,国際標準の安全の考え方を基とした,大学院技術経営研究科専門職学位課程システム安全専攻を平成18年に設置し,これまでに合わせて約170人の修了生を輩出してきました.現在では,多くの修了生が安全関連のフォーラム等においてオピニオンリーダーとして活躍しています.しかしながら,国際規格の制定や認証制度の拡充については,我が国は今もなお欧米の後塵を拝しているのが実情です.

この状況を打開するためには,新技術に対して安全であることを保証するシステムを国際標準に基づいて構築すること,並びに第三者の認証を得てそれを証明できることが必要となります.サプライチェーンのグローバル展開や国内外の資源を活用したオープンイノベーションの推進においても,安全であることを保証するシステムの構築が不可欠です.

経験的安全構築が困難な新技術やイノベーションを社会実装するには,論理的安全構築による独自規格の制定が必須となります.したがって,従来の欧米規格へのキャッチアップから脱却し,安全規格で世界をリードする,すなわち我が国発の国際規格を制定することが,我が国発展のための歩むべき道となっているのは明らかです.しかしながら,国際規格を新たに制定するためには,そのスコープにおける現象の理解とメカニズムの解明が不可欠です.加えて,規格内容の本質を見抜くには,単なる知識に留まらず、深い洞察力が必要です.また,職場の安全確保や安全な製品・サービスの提供には,事故に至るメカニズムの解明と論理的な安全対策の構築が必須です.これらの遂行においては,諸課題を解決する実務能力に加えて,精深な学識,論理的思考力,及び創造力,すなわち研究能力を有する人材が重要な鍵を握っています.それゆえ,これらの能力を有する人材の養成が,我が国発展のための喫緊の課題となっており,大学等での人材養成が望まれています.

技術革新が急速に進展する現代では,技術の高度化や複雑化,事業活動の大規模化,組織や企業の活動に対する社会的諸要請の強まり等に伴って,システム安全の重要性が以前にも増して高まっています.先に述べた通り,新たな技術に対応した安全の研究が求められており,研究能力を培うことが大学等に要請されています.すなわち,本学におけるシステム安全に係る教育と研究が,今こそ必要とされているのです.これらのことから,令和3年4月,本専攻は長岡技術科学大学大学院工学研究科システム安全工学専攻として,新たなスタートを切りました.